燃料電池の開発には実運行データが重要? ボッシュが初めての「水素トラック」を導入!

燃料電池の開発には実運行データが重要? ボッシュが初めての「水素トラック」を導入!

 ドイツのボッシュといえば燃料電池システムを製造しているメーカーでもあるが、自社製のパワーモジュールで駆動する水素トラックを工場の業務に初めて投入した。

 トラック用燃料電池システムは、工場と物流事業者にとって環境にやさしい運行を可能にするとともに、メーカーはその運行を通じて得られたデータを、燃料電池システムの更なる開発に活用することにしている。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Robert Bosch GmbH・Iveco Group N.V.

ボッシュが初めての「水素トラック」を工場物流に投入

燃料電池の開発には実運行データが重要? ボッシュが初めての「水素トラック」を導入!
ボッシュは自社の物流に、自社の燃料電池を搭載するトラックを導入した

 ドイツの自動車部品メーカーでテクノロジー企業のボッシュは、自社の製品を自社の物流に活用して環境対策を進めている。

 同社ニュルンベルク工場の輸送に、イヴェコの燃料電池EV(FCEV)トラックを初めて導入する。同車にはボッシュ製の燃料電池パワーモジュール(FCPM)が搭載されている。

 「ドイツ未来賞2025」にもノミネートされたというボッシュのFCPMを搭載するイヴェコ「S-eウェイ・フューエルセル」(S-eウェイFC)は、現在市販されている数少ない大型FCEVトラックの一つだ。

 ニュルンベルク工場長のアレクサンダー・ヴァイクセル氏は次のように話している。

「私たちの工場をより環境に優しいものにするには、私たちが製造しているFCPMを搭載したトラックを導入する必要があることは明らかでした。これは物流部門からの排出を削減するための重要な基盤となります。

 ボッシュの燃料電池システムは既に数千台のトラックに搭載され、世界中の道路を走っています。この事実は、水素による脱炭素というコンセプトの価値を証明しています」。

 FCPMは、水素と酸素を反応させて電気を作る燃料電池を活用したパワートレーンで、連結総重量40トンの大型トラックを水素で駆動することができる。CO2を排出せず、水素を再生可能エネルギーで製造すれば環境中立にも貢献する。

 こうした車両への切り替えによりボッシュはニュルンベルクにおける一つの模範を示し、バイエルン州の「水素戦略2.0」に沿った水素バリューチェーンを開発する上でも積極的な役割を果たしたい考えだ。

実運行を通じて開発のためのデータを得る狙いも

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このFCEVトラックは、主に工場からの出荷に活用される

 S-eウェイFCの最大航続距離は約800kmで、その運行を担うのはボッシュの貨物運送を委託されている運送会社のシェフライン社となる。同社はゼロエミッションのトラックを専門とするレンタル会社のハイレーン社からこの車両をレンタルするという。

 主に工場で製造される製品を輸送するために使用され、年間で12,000kmを走行すると見込まれている。工場からのCO2排出削減に貢献するいっぽう、FCPMのメーカーであるボッシュがこのトラックを運行する主目的は、まず経験を積み、可能な限り多くのデータを収集することだという。

 運行を通じて得られたデータは「コンパクト190」や「コンパクト300」などパワートレーンの更なる開発に活用される。工場長のヴァイクセル氏は将来について楽観的だが、同時に水素の入手性が重要になることも認識している。

「これまでのところ、トラック側には何の問題も起きていません。つまり燃料電池システム自体は大量生産に向けて準備が整っているということです。

 しかしながら、水素経済が成功する鍵は何よりもまず手頃な価格の水素の確保です。この地域に適切な水素インフラを整備しなければなりません。私たちはバイエルン州の水素戦略を実現するため、様々な産業界のパートナーと積極的に協力しています」。

 S-eウェイFCは、米国のニコラが開発していた「トレFCEV」がベースだ。ニコラは2025年2月に破産を申請しているが、イヴェコは提携していたニコラの欧州事業を買い取り、今は単独でFCEVを展開している。

燃料電池の開発には実運行データが重要? ボッシュが初めての「水素トラック」を導入!
イヴェコ「S-eWay Fuel Cell」のMY2024モデル

 車両には5つの高圧水素タンクが搭載され、合計70kgの気体水素を保持している。燃料電池の総出力は200kWを超え、必要に応じてバッテリー出力と組み合わせてeアクスル(電動の駆動軸)を駆動する。

 燃料電池を補うバッテリーは2つ搭載しており、トラック全体のシステム出力は400kW(約540hp)となる。連結総重量は最大44トンだ。

 大型車に適した駆動方式とされるFCEVは、一般にバッテリーEV(BEV)より外気温の影響を受けにくく、長い航続距離を実現する。燃料の補給にかかる時間はディーゼル車と同等で、BEVの充電と比べたら驚くほど短時間だ。

 ボッシュがシュトゥットガルト=フォイヤーバッハ工場でFCPMの生産を開始したのは2023年半ばで、バンベルク工場が燃料電池スタック、ホンブルク工場が電動エアコンプレッサや再循環ブロワーなどの部品を供給している。

 水素社会の実現に力を入れている同社は、FCPMだけでなく水素の製造、インフラ整備、水素利用のためのソリューション開発も行なっている。2025年春には水素を製造する電解槽向けにPEM電解スタックを発表したほか、水素の利用を拡大するため、燃料電池にとどまらず水素エンジン(水素を燃焼する内燃機関)にも積極的に取り組んでいる。

【画像ギャラリー】ボッシュの燃料電池パワーモジュールとイヴェコのS-eWay FC(4枚)画像ギャラリー

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