ダイムラー・トラックは液体水素を燃料とする燃料電池大型トラックのプロトタイプ「GenH2」の次世代モデルを試験していることを明らかにした。現行のプロトタイプの経験があり、最初から冬期のアルプスという極限条件で試験を実施したという。
BEVより複雑なパワートレーン制御の玉成を図り、2026年末を予定している少数量産に繋げたい考えだ。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck AG
ダイムラーのプロトタイプFCEVトラックに次世代モデル
ダイムラー・トラックの開発チームは2025年3月24日、燃料電池EV(FCEV)トラックの次世代プロトタイプを初めて製作し、冬のヨーロッパアルプスの厳しい環境で一連の試験を行なったことを明らかにした。
試作されたプロトタイプは2台で、液体水素を燃料とする現行のメルセデス・ベンツ「GenH2」プロトタイプの次の開発ステージに相当する。
試験が行なわれたスイスのヴァレー州にあるシンプロン峠は、冬の寒さと勾配など、大型車にとっては相応に困難な環境で、それゆえに冬期試験には適した条件を提供する。開発チームは実際の極限環境下で車両を試験することで液体水素で駆動する大型トラックという革新的な技術について貴重な洞察を得ることができたという。
メルセデス・ベンツ・トラックスの製品エンジニアリング責任者のライナー・ミュラー・フィンケルダイ氏は次のようにコメントしている。
「メルセデス・ベンツの『GenH2』トラックの新しい開発フェーズでは、最初の(現行の)プロトタイプでの経験をシームレスに活用することで、初めから極限条件で改良された技術を試験することができます。
海抜2000メートルを超える標高と長い坂道があるシンプロン峠は、燃料電池システムと強化したコンポーネントを試験するのに適した場所です。この試験を成功裏に通過したことで、GenH2トラックは厳しい環境でもその潜在能力と信頼性を発揮することが確認されました」。
BEVよりはるかに難しいパワートレーン制御
試験では燃料電池、走行用の高電圧バッテリー、電動アクスル(eアクスル)、液体水素タンク、熱管理システムなど、FCEVにとって重要なコンポーネントが協調して作動するか、徹底的にテストされた。
特に重点が置かれたのは、予測パワートレーン制御(PPC)システムと地形対応型クルーズコントロールをFCEV大型トラックで活用することだ。その目的は、上り坂での推進力と下り坂でのエネルギー回生を効率化することだという。
燃料電池とバッテリーを組み合わせるFCEVは、純電動のバッテリーEV(BEV)より制御が複雑で、燃料電池による発電と回生ブレーキによる発電、FCスタックからの出力とバッテリーからの出力など、必要な推進力と発電量を緻密にコントロールする必要がある。その分、地形先読みによるパワートレーンの予測制御の効果が大きく、効率向上に寄与するようだ。
走行中にCO2を排出しない2台の新型プロトタイプは14日の試験期間中、最大40トンの連結総重量(GCW)で広範囲の走行試験を行なった。走行距離は累計6,500km、累積標高差は83,000メートルに上ったという。
特に厳しかったのは約20km続く10%~12%勾配の山道で、この区間だけでも走行距離は累積1,600kmに及んだ(ちなみに日本では道路構造令により公道の縦断勾配の最大値が「12%」と定められており、大型トレーラにとっては限界に近い急坂)。
燃料となる水素の補給はヴァレー州の試験基地に設置した、エア・プロダクツ社の移動式水素ステーションによって行なわれた。
コメント
コメントの使い方