引っ張られるだけじゃない!? 「電動トレーラ」普及へZFが新興企業とパートナーシップ

引っ張られるだけじゃない!? 「電動トレーラ」普及へZFが新興企業とパートナーシップ

 トレーラといえば、自身は駆動力を持たず、連結したトラクタに引っ張られることで移動する車両を指すが、近年、大型車の電動化で「eアクスル」が商品化され、トレーラに駆動力を持たせることが可能になっている。

 環境性能と安全性の両面で「電動トレーラ」に期待がかかるなか、ZFと米国の新興企業がパートナーシップを発表。運送業界の需要に応える現実的なソリューションとして電動トレーラの普及が進むかもしれない。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/ZF・Range Energy

「電動トレーラ」の可能性

引っ張られるだけじゃない!? 「電動トレーラ」普及へZFが新興企業とパートナーシップ
ZFとレンジエナジーが「電動トレーラ」で提携を発表した

 自動車部品の世界的サプライヤー・ZFと、米国の新興企業・レンジ・エナジー(以下、レンジ)は、どちらも「電動トレーラ」を商用車業界に普及させることを目指している。

 トレーラ(セミトレーラ)はトラクタでけん引される「被けん引車」で、普通は駆動力を持たないが、大型車の電動化が進み電気駆動の車軸(eアクスル)が商品化されたことでトレーラに駆動力を持たせることも可能になった。

 eアクスルを追加した電動トレーラは、内燃エンジンのトラクタと組み合わせた場合は燃費の大幅改善、電動トラクタとの組み合わせでは航続距離の延伸などの効果が期待できるほか、制動距離の短縮による安全性向上や、連結車が苦手とする急勾配や雪道でのトラクション確保などが利点とされる。

 環境性能と安全性能、そしてコストなどの面から「現実的な」技術として期待されており、欧州など一部の国では電動トレーラを運行できるように法改正も行なわれた。

 その普及を目指すZFとレンジは、2025年2月4日に北米の電動トレーラ事業におけるパートナーシップを発表した。レンジの「eトレーラシステム」向けに、ZFがeアクスル「AxTrax2」などの技術を提供する。

 今回のコラボは、トラック業界にはスケーラブルで受け入れ可能なハイブリッド&ゼロ排出技術が必要であるという、運送業界の切実な需要に応えるものだといい、ZFの商用車ソリューション担当シニアバイスプレジデント、ジョン・ホーキンス氏は次のように述べている。

 「電動トレーラは実現可能なソリューションであり、排出ガス削減と内燃エンジンの燃費向上、バッテリーEVトラックの航続距離延伸に役立ちます。さらに、排気ガスによる大気汚染や都市の騒音問題、ブレーキ摩耗粒子による環境汚染への対応や、総保有コストの低減にもつながる技術です。

 レンジの市場ポジションを考えると、同社はZFの『AxTrax2』を北米に展開する上で理想的なパートナーです。この提携は、弊社の電動モビリティの用途を拡大するだけでなく、排出削減が困難なセクターにスマートな解決策を提供する機会も与えてくれます」。

 自動車部品の世界的なサプライヤーであり、特に商用車では次世代モビリティの市場リーダーとなっているZFは、レンジとの提携を通じてトレーラ/トラクタのOEMメーカーなどエコシステム全体でのパートナーシップ推進も目指しているようだ。

現実的な「ハイブリッド」ソリューション

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初期コストはかかるが、燃費改善などを通じて電動トレーラ1台当たり年間で最大2万ドルの節約が可能だとか(米国の場合)

 今回の提携によりレンジのeトレーラシステムには、モジュール式バッテリーパックと、ZFのeアクスル、そしてレンジが特許を持つトレーラ連結の制御アルゴリズムを備えた「スマートキングピン」が含まれるようになった(キングピンはトラクタとセミトレーラを繋ぐ連結器)。

 ZFのAxTrax2は大型商用車用のeアクスルで、主にトラックメーカーなどに供給する部品となる。コンパクトな設計によりバッテリーの搭載スペースを最大化するなど、コンセプトに対して車両の設計柔軟性が高いことが特徴だという。

 また、CANバスにより車両とアクスルで情報を共有でき、ブレーキやADAS(先進運転支援システム)、自動運転などの車両機能とも同期が可能な設計となっている。

 セミトレーラを電動化するにはバッテリーやeアクスルなど(現状では)高価な部品を使うので初期投資額が高く、トレーラ側のメンテナンスにも費用が掛かるが、初期のテストによると、既存のディーゼルトラクタやインフラを最大限に活用できるので、トレーラ1台あたり年間で最大2万ドル(約300万円)を節約し、CO2排出量を同70%削減可能だという。

 トラクタ(ディーゼル車)を電動化するより、トレーラを電動化したほうが排出削減にかかる費用対効果が高いというのがレンジの主張だ。

 レンジのCEOで創業者のアリ・ジャビダン氏はプレスリリースにおいて次のように話している。

 「時間は何よりも重要です。商用車を運行するドライバーや運送会社は、車両が排出削減に向けて進化するなかでも、スムーズで一貫した運行を確保しなければなりません。

 電動トレーラという、新しい市場を獲得するために、ZFのような市場リーダーと提携できることは光栄なことです。この協力は、私たちの実績のあるコンポーネントを急速に進化させます。商用車による環境負荷を軽減する上で電動トレーラが大いに役立つことを証明したいと考えています」。

 レンジのeトレーラシステムは2025年中に最初の顧客に納入される予定で、現在同社は全米のパイロット顧客に試作ユニットを提供している。同社は2021年に設立された新興企業だが、テスラやホンダなどで実績のある技術者が在籍し、ヤマハ発動機のベンチャーキャピタル、Yamaha Motor Venturesなどが支援しているそうだ。

【画像ギャラリー】レンジエナジーの電動トレーラとZFのeアクスルを画像でチェック!(7枚)画像ギャラリー

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