メルセデス・ベンツ・トラックスは2024年11月末より、ヴェルト工場で長距離輸送用の大型バッテリーEV(BEV)トラック「eアクトロス600」の量産開始を予定している。
ハノーバーで開催されたIAAトランスポーテーションで、「インターナショナル・トラック・オブ・ザ・イヤー2025」を受賞した同車だが、量産開始を前に既に納車準備も進められ、顧客向けの第1号車は2024年中に製造・登録される見込みで、主要コンポーネントの製造が既に始まっている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck AG
電気駆動の中核となる「eアクスル」を製造開始
1894年に設立された世界最古の自動車工場としても知られているメルセデス・ベンツのガッゲナウ工場は、トラック用のトランスミッションなども製造しているが、ダイムラーの電動ドライブ向けコンポーネント開発の中心地でもある。
電動パワートレーンの中核的なコンポーネントで、アクスル(車軸)に電動モーターやトランスミッションなどを組み合わせた「eアクスル」は、同社の「eアクトロス300/400」と「eエコニック」シリーズ向けに2021年から同工場で製造している。
長距離輸送用を視野にいれた「eアクトロス600」ではeアクスルも新型となるが、ガッゲナウで製造することに変わりはない。
メカニカルなパーツ製造に関してガッゲナウ工場には、従来車の時代からの長年の経験がある。およそ30種類のコンポーネントを組み合わせた4段変速機付き電動アクスルという最新技術でも、もちろんメカニカルな部品は多用されている。
たとえばシャフト、ギア、シンクロナイザー、ハウジングなどは新規開発された専用品で、アクスル組み立てラインがあるカッセルに送られ、そこで新型の電動リアアクスルが完成する。
これに加えて、キャブやボディシェル部品もガッゲナウで製造される。リアパネルやルーフ、バルクヘッドとシャシーフレームのクロスメンバー、その他さまざまな補強材などで、これらは従来のディーゼル車との共通部品だ。
電動パワートレーンの全ての要素は、品質、サービス寿命、取り付けスペースなど厳格な基準を満たす必要があり、特にギアやシャフトなどの寸法誤差は極めて狭い範囲に収められる。ギア専用の研削盤など最新の装備が精密な加工を可能にしている。
工場内の一部スペースはハウジングの加工用(穴あけ、フライス加工、ねじ切り)に割り当てられ、自動化された加工センターが設立された。ここでは、いわゆる「デジタルツイン」による仮想運転によりシミュレーションを行なうことで、生産施設の立ち上げを大幅に高速化した。世界に先駆けて長距離BEVを市場投入する上では、生産技術の革新も寄与しているようだ。
新開発のコンポーネントと共通部品の組み合わせ
カッセル工場は従来のアクスルと電動ドライブの両方を組み立てており、グローバルに供給している。eアクトロス600向けの新型eアクスルも同様だ。
長距離輸送を想定して再設計した同機は、より高いパフォーマンスと効率を実現するため革新的な技術を盛り込んだ。そのために組み立てラインが工場に新設され、安全性に関する試験・検査用のステーションも併設した。
eアクトロス300/400とeエコニック用のeアクスルもカッセルで組み立てを行なっているが、共通部品の原則はここにも適用される。つまり、ホイールエンドやブレーキ部品などはカッセル工場が数十年にわたり製造してきたものから派生している。
非常に柔軟な組み立てラインとなっており、従来車のアクスルからBEV用のeアクスルまで、状況に応じて作り分けている。カッセル工場では全体の工程を最適化するため、各段階で調整が行なわれているが、組み立てのベースになるのがアクスルキャリアで、従来のアクスル用と同一とすることで既存車のラインに簡単に適合させることができる。
最初の段階でサスペンションやブレーキの組付けのための準備が行なわれ、ブレーキドラムなどがマウントされる。いっぽう、電動ドライブユニットの組み立てエリアでは、ガッゲナウから送られてきたトランスミッションや2基のモーターなどのコンポーネントをハウジングに取り付けて行く。
組み立ての最後はいわゆる「マリッジ」で、電動ユニットとアクスルが一つになる。センサー類や冷却用の配管、低電圧系のケーブルなどもここで取り付けられる。
カッセル工場から出荷される前にeアクスルは機械系/電気系の機能試験を徹底的に実施する。いわゆるEOL(エンド・オブ・ライン)試験で、これがプロセスの最終段階となる。ここでは高電圧系のケーブルを接続し、実際に電気を流して試験する。そして様々なシチュエーション、荷重、地形、ギア段を想定したシミュレーションを行なう。
EOL試験を通過したら、あとはヴェルト工場へ送られるのを待つだけだ。長距離輸送用の量産型BEVトラック第1号車は、2024年中にヴェルト工場で誕生する予定となっている。
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