摂氏マイナス35度でも問題なし! ベンツの長距離輸送用EVトラックが冬期試験を終え予定通り量産へ

摂氏マイナス35度でも問題なし! ベンツの長距離輸送用EVトラックが冬期試験を終え予定通り量産へ

 電気自動車は寒さに弱いとされ、乗用車では冬期の航続距離が大幅に短くなったという報告もある。稼働を止められない商用車では「寒さ」対策はさらに重要だ。

 2024年中に量産化を予定しているメルセデスベンツの長距離輸送用BEV大型トラックでは、氷点下35度という真冬のフィンランドでウィンターテストが行なわれた。その結果は良好とのことで、欧州の長距離輸送の電動化は計画通りに進められる見込みだ。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck AG

eアクトロス600が冬期試験を通過

摂氏マイナス35度でも問題なし! ベンツの長距離輸送用EVトラックが冬期試験を終え予定通り量産へ
1月から3月にかけてフィンランドで「eアクトロス」のウィンターテストが行なわれた

 バッテリーEV(BEV)は低温環境で性能が低下することがあり、冬季の航続距離がメーカーの公称値に達しないEV乗用車が問題になったりしているが、事業用のトラックでは所定の性能を発揮することが乗用車以上に重要となる。

 2024年内に量産化を予定しているメルセデスベンツ・トラックス(ダイムラー・トラックグループ)の長距離輸送用BEV大型トラック「eアクトロス600」は、量産前最後となるウィンターテストをフィンランドのロヴァニエミで行ない、同社は3月14日、良好な結果が得られたと発表した。

 試験が行なわれた1月から3月のフィンランドは、摂氏マイナス35度という極端な低温・氷雪環境となる。また、2月にはドイツのアウトバーンで冬季サービスの試験も行ない、どんな時でも稼働を止めない「働くクルマ」としての可能性を証明した。

 ウィンターテストを乗り越えたことで予定通りに量産化が進められるとみられ、欧州では今年中にも長距離輸送の電動化が本格的に始まる見込みとなった。

 メルセデスベンツ・トラックスで車両試験を担当するクリストフ・ビーバー博士は次のようにコメントしている。

 「eアクトロス600はウィンターテストを通過し最後のストレートに入りました。私たちは試験結果に非常に満足しています。アンダルシアの酷暑とロヴァニエミの極寒に耐え抜いたeアクトロスと試験チームを誇りに思っています」。

アウトバーンのウィンターサービスでも問題なし

摂氏マイナス35度でも問題なし! ベンツの長距離輸送用EVトラックが冬期試験を終え予定通り量産へ
時速80kmで走行しながら幅12メートルに凍結防止剤を散布する

 また、メルセデスベンツ・トラックスとドイツ連邦政府が保有する高速道路会社(アウトバーンGmbH)は、2024年2月初めより共同で「eアクトロス600」(プロトタイプ)によるウィンターサービスの試験を行なった。

 場所はアウトバーンのA2線、ハム-ビーレフェルト間で、eアクトロス600トラクタにエポケ社製のセミトレーラを連結した車両。トレーラは道路の凍結防止用の液体を散布するボディを架装しており、試験では従来の融雪剤より環境にやさしいとされるブライン液(塩と水を混ぜた液体)を使った。

 時速80kmで走行しながら、幅12メートルにわたってブライン液を散布できる3軸セミトレーラとなっており、ボディを駆動するための動力はリア側(トレーラ側)のホイールを介して得る仕組みだ。

 このためトラクタ(けん引車)側の動力を問わず、BEVでもディーゼル車でも同じように使用できるという特徴がある。なお、ブライン液を散布するスプレッダーは無線で制御する。

 この試験の結果、高速道路で凍結防止剤を散布するウィンターサービスはBEVトラックでも充分に行なえることが確認されたという。

長距離輸送用の「eアクトロス600」とは?

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「eアクトロス・ロングホール」改め「eアクトロス600」は2023年10月に発表された

 eアクトロス600は2023年10月に世界初公開された、長距離輸送用のBEV大型トラックだ。それまで(開発時)は「eアクトロス・ロングホール」と呼ばれていたが、既に市販されている「eアクトロス300/400」と同様に数字を付けた名称となった。

 この数字は搭載するバッテリーの総容量を表しており、eアクトロス600は約600kWh容量のバッテリーを搭載する。

 名称は似ているがパワートレーンを含むアーキテクチャは別物となっており、eアクトロス600にはベンツが社内で新規開発した電動アクスルを搭載し、途中充電なしで500kmの航続距離を実現する(EUのレギュレーションをベースに、総重量40トンの4×2トラクタで外気温20度を想定する同社独自の測定方法)。

 充電は最大400kWのCCS方式に加えて、メガワット充電システム(MCS)にも対応する予定となっている。キャブ骨格は「アクトロス」シリーズからのキャリーオーバーだが外装デザインは完全に一新され、空力性能を高めている。

 電動化という「トレンド」はともかく、商用車を運行する顧客にとって最も重要なのはBEVトラックにより収益性が向上するかという点だ。特に長距離輸送は大型トラックの最大のボリュームゾーンであり、関心が高い。eアクトロス600はこの重要なセグメントで、長期的にディーゼル車を置き換える新水準を目指して設計された。

 メルセデスベンツ・トラックスは長距離輸送の電動化に際して、顧客にヒューリスティックなソリューションを提供するというコンセプトを示している。

 つまり、車両、コンサルティング、充電インフラなど総合的なサービスにより顧客に利益を提供するという考え方だ。トラクタ系に加えて当初からリジッド(単車)系も販売することで、様々な架装に対応する。

 現在の欧州のエネルギーミックスを想定する場合、ディーゼル車のアクトロスと比べてCO2排出量を40%削減する。再生可能電力を使った場合は80%だ(車両寿命を10年とし、原材料の生産工程を含む全ライフサイクルでの排出量)。

 バッテリーの製造などに多くのエネルギーが必要となるため、BEV製造時の排出量はディーゼル車より多くなるが、運行時の排出が少なく、走行距離の長い長距離輸送用トラックでは初年度~2年目には全体の排出量がディーゼル車より少なくなる計算である。

【画像ギャラリー】冬期試験を行なうベンツ・eアクトロス600を画像でチェック!!(14枚)画像ギャラリー

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