排出ゼロなら荷物を4トン多く積んでもOK!? 欧州委がゼロ・エミッショントラックの規制緩和を提案

2022年に車両規制を再評価

 欧州で大型車の車両重量・寸法を規定するEU指令「96/53/EC」は1996年に定められたもので、2002の「2002/7/EC」と、2015年の「(EU)2015/719」で修正されている。2002年の改正はバスの寸法に関するもので、EU域内のシームレスな旅客運送を可能にした。

 いっぽう2015年の改正は一部の車両と連結車における重量・寸法に対するデロゲーション(制限猶予)により、代替燃料を使用するパワートレーンの普及を図ったほか、交通安全と貨物輸送に携わるドライバーの快適性向上をめざした。

 今回の提案は、2022年に現行のEU指令に対する再評価が実施されたことを受けたもので、現行の規制は道路輸送における安全性向上、道路インフラの保護、コンテナ化等によるインターモーダル輸送の奨励において効果的と評価されたが、ゼロエミッション技術や省エネデバイスの導入促進については不十分と評価された。

 特に、貨物輸送のエネルギー効率を高め温室効果ガスの排出量を削減するためのインセンティブが、内燃機関より多くの重量とスペースを必要とするゼロエミッション技術の実情を反映していないとされた。

 加盟国による国内向けの長大・重量車の規制においては、各国のルールがパッチワークとなっており、大型車によるスムースな国境越えが難しく、その運用は非効率で越境輸送における行政も効果的でないと評価された。

 こうした知見をもとに、
1.ゼロエミッション大型車や省エネデバイスの普及を妨げている障壁を除去し、インターモーダル輸送にインセンティブを与える
2.国境を超える大型車の総重量や寸法についてルールの協調を行なう
3.交通安全の目的を含め、国境を超える際の行政を効率化する
という目標が定められた。

具体的な提案は?

排出ゼロなら荷物を4トン多く積んでもOK!? 欧州委がゼロ・エミッショントラックの規制緩和を提案
スウェーデンはトラック長大化の本場。同国を本拠とするスカニアのBEVトラック(25P)は、EUの規制値を大幅に超える重量・全長で運行されることも多い

 提案の一つはZEVトラックにエクストラ・ウェイトを認めるというもので、大雑把に言ってしまえば当局が「ゼロ排出トラックに限り、4トンまでの過積載を認める」というものなのだが、重量の緩和によって貨物輸送の方向性を政策的にコントロールするという試みはEUにとっては常套手段となっている。

 現状の低炭素トラックに対する2トンの緩和のほか、インターモーダル輸送(コンテナなど標準化された貨物ユニットを用いて2つ以上の輸送手段によって行なう輸送)においても車軸数などの条件付で最大4トンが緩和される。

 欧州では大型トレーラの連結総重量の一般的な制限値は40トンだが、ZEVでは最大4トンの重量が追加され44トンとなる。なお、ZEVトラックにエクストラ・ウェイトを認めるという施策は米国などでも導入されている。

 北欧諸国が全長25.25メートル/総重量60トンを超える大型車を認めているほか、オランダやドイツなどでも長大トレーラの実証運行が行なわれており、道路インフラ(路面や橋梁の保護)や安全性については問題ないことが既に確認されているようだ。

 また、インターモーダル輸送の促進のために車両の全高制限の緩和(4メートルから4.3メートルへ)も提案されている。これは国際海上コンテナの「ハイキューブコンテナ」(背高コンテナ)の輸送を効率化するため。

 ハイキューブコンテナは「クンロク」と通称されるように高さが9フィート6インチ(約2.9メートル)あり、現状では低床トレーラにより全高制限以内に収めるか、制限オーバーの許可を受けた特殊車両でしか運べなかった。全高制限が緩和されれば通常のトレーラでも運べるようになる。

 インターモーダル輸送においては単車トラックに対してもトレーラと同様の重量緩和が提案された。このほか、車両運搬車では荷物(自動車)のオーバーハング部分の長さや許認可の申請プロセスなどで基準の調和が図られる。

 いっぽう重量制限の順守のために、道路インフラへの計量装置(過積載検出装置)の設置義務化など、取り締まりと最低管理レベルの強化も盛り込まれているようだ。

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