トラック輸送と死亡事故
欧州に限らず、道路輸送の改善は今日のあらゆる社会において必要不可欠なものとなっている。私たちが生きるために必要とするもの、快適さや楽しみのために望むものなど、大部分を運んでいるのが道路だ。
貨物輸送の多くは道路に依存しており、欧州は貨物鉄道の輸送力強化やモーダルシフト(鉄道や船舶の利用)の推進、地産地消による貨物量の削減、輸送チェーンの最適化などを通じて道路輸送の需要を減らそうとしている。
しかしながら、人口の増加と生活水準の向上により全体として貨物の量は増え続けている。ITF(国際交通フォーラム)の2019年の予測によれば、グローバルの貨物需要は2015年から2050年の間に3倍に増加するとされている。重要なのは、世界の大型トラック需要はその間に増えることはあっても、減ることはないということだ。
EU加盟国において大型トラックは全車両の1.5%を占めるに過ぎないが、EU全域の交通死亡事故の15%が大型トラックによるものだ。大型トラックによる交通事故という問題に取り組むことなく、道路交通の「ビジョンゼロ」を実現することはできない。
サッチャム・リサーチの首席研究戦略オフィサー、マシュー・エイベリー氏によると、先進の運転支援技術が標準化されたことで、欧州では乗用車の交通事故が40%少なくなったという。
大型車にも同じような技術はあるが、オプション装着であったりメーカーごとに仕様が異なるなど規格化されていないため、大型トラックが関係する事故では死者数が著しく増える傾向にある。
ユーロNCAPの事務局長を務めるミヒャエル・ヴァン・ラティンゲン氏はプレスリリースの中で次のようにコメントしており、トラックの安全性評価に基準を設ける意義を強調している。
「大型車や商用車の安全水準を調査し、その安全性を向上することにより、交通事故という不幸に終止符を打ち、事故・災害予防の『ビジョン・ゼロ』を多くの欧州諸国が達成できると信じています。
トラックの安全性を評価することで、(消費者にとって)わかりやすいラベルを導入し、(事業者に)安全性能の向上を促し、運行上のコスト最適化を可能とします。これによりトラックの安全性を向上させようという当局の取り組みが加速し、欧州の道路はさらに安全になります。
私たちは、社会が求めるこうしたスキームを成功させるために、リソースに投資するとともに知識を深めてくれる仲間を積極的に探しています。ユーロNCAPにとっても、この取り組みへの参加を希望している新しいメンバーにとっても、新しく、挑戦的で、エキサイティングな旅になるでしょう」。
最も安全な車両が、最も利益をもたらす
ユーロNCAPは「最も安全な車両が、最も利益をもたらす車両である」という市場を形成することが、最も重要であると確信している。
それを達成するための手段の一つが、国、地域、地方のイニシアチブと連携し、地域的な乗り入れ制限などの規制や貨物輸送のベストプラクティス、公共部門の調達契約、保険などの分野でインセンティブを生み出すことだ。
こうしたインセンティブと、より強固で調和のとれた技術基準とを組み合わせることで、消費者(事業者)にはより安全な車両を求める購買力が生まれる。また、メーカーが商業的成功を収めるためには安全性におけるイノベーションを目指す必要がある。
とはいえ、一つのサイズが全てに適用できるわけではない。たとえば拠点間の配送を行なっているトラックの多くは、市街地に入ることはまずない。集配用トラックは大部分を都市内で過ごすし、単車ダンプは高速道路や幹線道路のほかにオフロードや路地を走行するかもしれない。
都市部に入らないトラックに都市特有の安全ソリューションを奨励しても意味はなく、利益のないコストが増大するだけだ。いっぽうで都市用の安全システムを備えていないトラックが、都市特有のリスクが高い地域に入れないようにすることは行政当局にも許されている。
こうしたことからユーロNCAPは、トラックの評価スキームとして都市と高速道路の二重評価というコンセプトを目指している。
すべての車両は両方の基準で評価を受ける必要があるが、車両の購入を検討している事業者は、主な用途がどちらか一つであれば、適切な評価のみを検討すればよい。汎用の(多目的の)車両を必要としている場合、両方の評価で高いパフォーマンスを示した車両を検討する必要がある。
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