ドライバーの「過大な荷役作業」も事故の原因に? 山形県東根市の中型トラック追突事故調査報告書より

ドライバーの「過大な荷役作業」も事故の原因に? 山形県東根市の中型トラック追突事故調査報告書より

 事故原因が運送事業者の組織的・構造的な問題に起因する可能性があるとして「重要調査対象事故」となっていた山形県東根市で起きた中型トラック追突事故について、このたび調査報告書が公表された。

 国土交通省は「不適切な運行管理が原因のひとつと考えられる」として、全日本トラック協会などを通じて事業者への報告書の周知を図っている。事業用トラックが関係する事故の防止のため、同報告書の内容を紹介したい。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真・イラスト/事業用自動車事故調査委員会・フルロード編集部

事故の概要

ドライバーの「過大な荷役作業」も事故の原因に? 山形県東根市の中型トラック追突事故調査報告書より
事故の状況図。わき見運転の中型トラックが停車中のバスに追突し、乗客を巻き込んだもの

 トラックなど商用車の交通事故防止とその被害軽減を目的として設置された事業用自動車事故調査委員会は国土交通省の外部委託組織で、要因分析及び再発防止策の提言が必要な事故を「重要調査対象事故」に認定し、調査報告書の公表を行なっている。中でも社会的影響が大きいものは「特別重要調査対象事故」となる。

 令和3年(2021年)に山形県東根市で発生した中型トラック追突事故は重要調査の対象となっていたが、このたび調査報告書が公表され、国交省が全日本トラック協会(全ト協)に事業者への周知を依頼した。全ト協は同種の事故を未然に防止するため積極的な取り組みを呼び掛けている。

 なお、調査は事業用自動車の事故防止と被害軽減を目的として行なっているものであって、個人や組織の事故責任を問うために行なうものではない。

 この事故は、2021年10月18日13時01分頃、東根市の国道48号を走行中の中型トラックが、バス停で客扱いのため停車していた乗合バスに追突し、乗車しようとしていた乗客2名を路上に転倒させ、うち1名を車両下部に巻き込み、さらに歩道に乗り上げて停車したもの。

 道路は直線の緩やかな下り坂で、路面は乾燥していた。最高速度規制は時速60kmだが、当該車両のドラレコの車速は時速70kmから時速55kmに急減速したのち、時速0kmとなっている。衝突の約2秒前(約34メートル手前)にブレーキをかけたが間に合わず、時速55kmで追突したものと推定されている。

 この事故により乗客2名が重傷を負い、うち1名は約1年後に死亡、運転者2名が軽傷を負った。

 事故原因が組織的・構造的な問題に起因する可能性があり、同種事故の多発が予測されるとして、事故調査委員会による要因分析及び再発防止策の提言が必要な重要調査対象事故と判断されたものだ。

荷卸し作業で過大な負担?

ドライバーの「過大な荷役作業」も事故の原因に? 山形県東根市の中型トラック追突事故調査報告書より
通常は2人で行なう荷卸し作業を1人で行なうなど、ドライバーには運行計画以上の負担がかかっていた

 調査報告書は、次の3つが事故原因と結論付けている。

・休憩する場所を探してわき見による前方不注意
・当初計画以上の荷下ろし作業で疲労し、眠気を感じ休憩場所を探しながらの走行
・初任運転者に対する不十分な指導教育

 ドライバーは「コンビニエンスストアを探すためよそ見をした」と話している。事故当日は3か所で荷卸しを行なっているが、そのうちの2か所で通常は配送先の従業員と2人で行なう作業を1人で行なっていた。約2500kgの積荷は1個当たり20kg~30kgの外壁材で、荷卸しは全て手作業だった。

 最初の荷卸しに2時間以上を要し、次の配送に間に合わせるため約6時間、休憩を取らないまま荷卸しと運転を継続している。通常とは異なる作業に疲労と眠気を感じ、休憩場所を探しながらの走行中に事故が発生した。

 報告書は、当初計画以上の荷卸し作業について、事業者がドライバーの負担を適切に管理していなかったと指摘した。

 ドライバーはこの業態に就いて1か月半の初任運転者で、採用されて半月の間に2回の単独事故(物損)を起こしている。これらの物損事故に対して指導が実施されたが、指導内容の理解・改善等、個別指導が不十分とされた。

 また、荷主企業がトラックドライバーに荷役作業などの付帯業務を行なわせることが一般化しているが、作業の効率化が進まず、ドライバーの長時間労働の要因となっていることも背景にあるとした。

再発防止策の提言

 事故調査委員会は運送事業者やドライバー側に可能な再発防止策として次のような項目を提言している。

・ドライバーによる積下ろし作業を行なう場合、作業量に見合った作業時間と疲労回復のための休憩時間を設けること
・運行中に疲労・眠気を感じた時は、コンビニなどを探すのではなく待避所などで早めに休憩すること
・わき見運転や居眠り運転の危険性を充分に理解させるように指導すること

 また、荷主側に対しては、事業者やドライバーの負担となる「荷待ち時間の増大」「無理な到着時間の設定」「やむを得ない遅延などに対するペナルティ」「過大な荷役作業」などを削減する適切な業務依頼を求めている。

 ちなみに、2023年に道路運送車両の保安基準が改正され、トラック・バス用の衝突被害軽減ブレーキの性能要件が大幅に強化された。2025年9月以降に生産される新型車では「70km/h以下で走行している場合に静止する前方車両に衝突しない」が適用され、今回のような事故は自動ブレーキにより回避できるか、少なくと被害は軽減される。

 トラックドライバーの担い手不足で、荷役作業の負担が増加するいっぽうで運転技術が未熟なドライバーは増えている。トラックの安全運転に責任を負うのはドライバーだが、法規制を待たずに最新の安全装備を導入していくことも重要になりそうだ。

【画像ギャラリー】東根市の中型トラック追突事故の状況(3枚)画像ギャラリー

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