2021~2022年の「逆転現象」はコロナ禍の影響?
驚くべきことに、2021年と2022年はHOSコンプライアンス格差が逆転した。つまり女性のほうが男性より違反する可能性が高くなった。
逆転の理由について研究チームは決定的な答えではなく推測的なものに過ぎないとしながら、次のように指摘している。
「新型コロナウイルスのパンデミックによりトラック輸送の需要が増えたものの、『社会的距離』などのルールにより配送センターなどでの駐車ができなくなった。その結果、安全な駐車場所の確保が難しくなり、女性ドライバーのHOS違反が増えたとしても不思議ではない」。
大型車の駐車場不足は米国のみならず日本でも深刻化な課題だ。女性トラックドライバーにとっては(特に銃社会の米国では)、身の安全にかかわる問題である。
大手運送会社は女性ドライバーが充分な照明とアメニティを備えた場所に駐車できるようルートを計画しており、規模が大きくなると男女のギャップがなくなる理由はこれで説明できるという。
駐車場不足が今後も続くならば、自身の安全を優先するため女性ドライバーのHOS違反は増加が予想され、社会的な側面からも大型車の駐車スペースの整備が求められる。
その他、データの堅牢性に関係する問題としては、男女で運転しているトラックに搭載される技術に差がある可能性や、運送会社の規模によって男女比に差がある可能性については、サブサンプルの分析から依然として男女差が大きいそうだ。
男女で運転経験に差がある可能性については、「オーナー・オペレーター」(個人事業主)に着目した。創業年から運転経験を推定できるため、経験豊富なドライバー同士で比較しても女性のほうがより安全な運転をする傾向は変わらなかった。
インスペクションを担当した検査官の潜在的な偏見や特異性については、検査官ごとにクラスター化したモデルでもメイン分析と同様だった。また、優れた安全対策を行なっている運送会社ほど女性ドライバーが就労を希望しやすいという可能性については、同じ業者内でも性別による違いがあった。
こうしたことから、「女性トラックドライバーは安全運転と労働時間の両方において、重大な違反を犯す可能性が男性ドライバーより小さい」という結論は、トラック業界全体に一般化できそうだ。
女性トラックドライバーの定着は社会的にも利益がある
トラック輸送は、ドライバーに大きな裁量を認めている点が他の業種と異なる。一般的な業種では上司や管理者の目があるが、「車庫を出れば自由」というのが、良くも悪くもトラックドライバーという職業の特性だ。
また、走った距離や運んだ荷物の量により給料が変動する歩合制・出来高制が多く、コンプライアンス違反が個人の利益につながりやすい。これが危険な運転に対する金銭的インセンティブとなっている。こうしたインセンティブがなくなった場合、プロのドライバーがあえてリスクを冒すだろうか?
明確なジェンダーギャップを考慮すると、トラックの安全性を向上するために「男性の意識・行動を変える」「女性の採用を増やす」などの手段が考えられるが、長年続けてきた行動を変えるよりは、女性トラックドライバーの数を増やすほうが有望な方法かもしれない。
いっぽう、ELDなど電子的なデバイスによってギャップは縮小したが、デジタル化が進むことでギャップが完全になくなるかは不明だ。電子的な介入が、どのような条件下で、どのように意思決定に影響するかはさらなる研究が必要となる。
規制に対する評価にも男女差があり、先述のとおり女性ドライバーは危険な場所で休憩するよりは、労働時間のルールを破ってでも安全な場所まで移動することを選択する傾向があり、駐車場不足などの問題は男性より女性への影響が大きくなる。政治や行政は規則の変更・導入に際してジェンダーギャップに留意することも重要になるだろう。
ドライバー不足は世界で共通する課題となっている。若手の採用は困難になり、男性ドライバーは高齢化し、女性ドライバーはなかなか定着しない。広大な米国でさえ、大型車の駐車場不足は深刻だ。
トラックの走行距離当たりの事故率は乗用車よりはるかに低いが、その重量と走行距離の長さからトラックが関与する死亡事故は多く、一般大衆から厳しい目を向けられるのはやむをえない。一度の事故で会社の存続が危ぶまれるケースも多いという。
今回の調査結果は、女性トラックドライバーの定着に向けた各国の取り組みが、社会的にも経済的にも利益があるという、明確で説得力のある理由になりうるものだ。日本においても女性ドライバーの積極採用に向けて、更なる取り組みを期待したい。
【画像ギャラリー】大型トラックを運転する女性は欧米でもまだ少ない(7枚)画像ギャラリー
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