「燃料電池トラック」受け入れに地域差? 米国で活発化するも欧州市場からは撤退するメーカーも……

「燃料電池トラック」受け入れに地域差? 米国で活発化するも欧州市場からは撤退するメーカーも……

 「水素社会」の実現は化石燃料への依存から脱却する上で重要とされ、特に大型トラックの脱炭素では燃料電池が本命技術ともいわれる。ただ、北米で燃料電池トラックの販売台数を伸びるいっぽう、バッテリーEVを重視する欧州からは撤退するメーカーが出るなど、地域差が生じているようだ。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Nikola Corporation ・ Hyzon Fuel Cell

北米で燃料電池トラックが活況

「燃料電池トラック」受け入れに地域差? 米国で活発化するも欧州市場からは撤退するメーカーも……
ロサンゼルスのドレージ会社、AiLOロジスティクスは5月にニコラのFCEVを100台発注。ちなみに同社は2024年納車分としてすでに50台を注文している

 米国の新興自動車メーカーで、バッテリーEV(BEV)や燃料電池電気自動車(FCEV)の大型トラックを製造するニコラは、2024年7月2日、同年第2四半期の「トレ・FCEV」販売実績が72台となり、目標の60台を上回ったことを明らかにした。

 第1四半期の販売台数は40台だったのでほぼ倍増し、2024年上半期の燃料電池トラックの販売台数は、これで合計112台となった。ニコラはゼロ・エミッション車の販売のほか、水素などエネルギーインフラのソリューションも「ハイラ(HYLA)」ブランドで提供している。

 今年に入ってニコラは、過去最大となる100台規模の受注(主に2025年分)や、米国外(カナダ)からの受注も獲得している。北米ではBEV市場が停滞するいっぽうで、燃料電池トラック市場は逆に活気づいてきた。

 同社によるとウォルマート・カナダからの注文など、新規の顧客獲得に加えて、4GENやIMCなどリピーターとなる顧客も現れており、北米のクラス8FCEVにおける先行者としての利益を享受しているようだ。

 北米市場は日本や欧州と比べて商用車の走行距離が長く、BEVトラックによる輸送の電動化が難しい。ゼロ・エミッション車で500マイル(約800km)の航続距離を実現するには、車両価格の高さを考慮してもFCEVのほうが現実的になっている。

 また、北米は大型車による輸送がほぼトレーラ化されているため、航続距離という問題さえクリアできればFCEVでもディーゼル車と同じような運行が可能だ。

ニコラの燃料電池トラック

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技術実証を目的としたコンセプト車は多いが、市販のFCEVトラックは多くない。ニコラや現代自動車などが先行している

 ニコラは「トレ」シリーズでBEVとFCEVを展開する。同車は提携するイタリア・イヴェコの大型トラック「S-ウェイ」シャシーをベースにドライブトレーンのゼロ・エミッション化を行なったもの。

 北米市場向けのキャブオーバー式大型トラックは、全数がアリゾナ州の工場で製造されている(欧州市場の同型車は、イヴェコが欧州で製造)。

 後前軸の電動アクスル(eアクスル)を駆動する6×2トラクタで、連結総重量(GCW)は8万2000ポンド(約37トン)。電動アクスルの連続出力は400kW(536hp)。燃料電池モジュールの出力は200kWで、総容量164kWhのバッテリーを搭載する。

 キャブバックなどに搭載する水素タンクは、圧力700バールの気体水素を合計70kg貯蔵し、最大で500マイルの航続距離を実現する。ディーゼル車と比較した場合、トラック1台当たり年間で97トンのCO2排出を削減可能としている。

欧州市場は軟調?

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ハイゾンのFCEVトラック「ハイマックス」(HyMAX)。オランダ・DAFの「XF」旧世代モデルがベースのようだ

 トラックの電動化では先行する欧州だが、燃料電池では事情が異なるようだ。

 ニコラは既に欧州市場から撤退しているが、ニコラと同様、米国を本拠に燃料電池トラックを製造する新興メーカーのハイゾンも2024年7月8日、欧州市場とオーストラリア市場からの撤退を発表した。

 北米市場が輸送のゼロ・エミッション化に向けて水素の利用を促進しているいっぽう、ハイゾンによると、欧州やオーストラリアでは燃料電池に対する政府の支援がむしろ衰退しているという。特に欧州では多くの国が水素技術への支援を終了したそうだ。

 同社のパーカー・ミークスCEOは次のようにコメントしている。

「これまで献身的に働いてくれた欧州とオーストラリアのチームに最大限の感謝をしたいと思います。これは複雑で困難な決断でした。新しい技術を市場投入することの難しさを考えると、北米市場の塵芥車に注力したほうが良いと考えています」。

 ただし完全に事業を終了するわけではなく、OEMメーカーに対して水素燃料電池システムを提供するなどサプライヤとして再参入する可能性も残している。

 ハイゾンは2020年の創業間もないころからホルトハウゼン・クリーン・テクノロジーと合弁で欧州事業を展開するなど米国外で受注を伸ばし、わずか1年でナスダック市場にSPAC上場を果たした。

 欧州ではオランダのDAF製シャシーをベースに、同国ウィンスホーテンの工場でFCEVトラックを組み立てていた。しかし、欧州合弁会社の非効率や中国事業をめぐる疑惑などから創業者でCEOであったクレイグ・ナイト氏が2022年8月に辞任、欧州事業は事実上の閉鎖状態となっていた。

 同社のFCEV塵芥車はメルセデス・ベンツの低床シャシー「エコニック」がベースだが、ダイムラーグループの北米ブランド「フレイトライナー」製で、ボンネットトラックもフレイトライナーの「カスケイディア」がベースだ。

 ハイゾンは欧州・オーストラリア市場からの撤退に関連して1700万ドルの損失を見込んでいる。

 水素の活用は脱炭素社会の実現に向けて重要とされ、特に商用車分野での技術開発が進むと予想されている。ただし、当局の予算にも限りがあり、どのような技術を選好するか地域差が生じている。日本メーカーも高い技術力を持つだけに、世界のFCEV市場の動向に注視する必要がありそうだ。

【画像ギャラリー】ニコラとハイゾンの大型FCEVトラックを画像でチェック!(8枚)画像ギャラリー

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