最高速度引き上げの「不都合な真実」
最高速度の引き上げに際して考えられる影響は、まずは高速道路の標識等のインフラの見直し、そして新型車への新しいスピードリミッターの装着、使用過程車へのスピードリミッターの改変、それができない場合の対応、大型トラックの開発における新速度規制への対応などがあげられる。
これだけでも大変だと思うが、それにもまして大きいと思うのはトラック運送事業への影響だ。当然、荷主など元請企業は引き上げられた最高速度を前提に運航スケジュールの改変を求めてくるだろう。つまりは「2024年問題」が荷主など発注元や元請の都合のいいように利用されることだって想定されるのだ。
また、安全運転とともに省エネのために社速を設定している運送事業者も多いと思うが、それに対して最高速度の引き上げにはどんな説得力があるのか? 昨今再び燃料代が上がってきているのにコストや環境に逆行して最高速度を引き上げるというのは、いかにもバッドタイミングだろう。
そして、なんといっても考えなければならないのはトラックドライバーへの影響だ。最高速度の引き上げで、20年間培ってきた運転感覚や運転スタイルを変更せざるを得ないし、却って時間に追われることになることも大いに考えられる。
トラックドライバーの疲労度が増すとしたら、働き方改革に端を発した「2024年問題」とは一体なんなのであろうか?
実は、「高速道路のトラック速度規制の引き上げ」は、今年6月2日の「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」で決められた「物流革新に向けた政策パッケージ」の1つの項目である。この政策パッケージには「2024年問題」の解決に向けて24項目もの施策があげられている。
その中には、荷主などの優越的地位の濫用を防ぎ適正運賃の収受を図る施策や即効性のある物流設備への投資など、実効性があると思われる施策もたくさんある。
とすれば、「最高速度の引き上げの前にもっともっと先にやるべきことがある」というのが偽らざる印象で、施策を並列に並べるのではなく、ぜひ優先度をつけて実効性の高いものから順次着手して欲しいと思うのだ。「最高速度の引き上げ」はプライオリティが最も低い施策であり、無くても全然構わない愚策だと思う。
そして願わくば、こういった施策を打ち出す前には、もっと現場の声に耳を傾ける努力をしてほしい。大手の事業者やエライさんだけで取りまとめるのではなく、現場を知り抜いた中小の事業者やトラックドライバーの声を聞かない限り、現場の実状とは乖離したものになろうし、実効性も薄くなると思うのだ。
日本のトラック物流は、長い年月を経てさまざまな要素・要因が複雑に絡み合い、微妙なバランスの上に成り立っていると思うのだが、それが「2024年問題」をきっかけに揺らぎ始めている状態だ。特効薬などないから、さまざまなバランスを勘案しつつ、一つ一つ実効性のある手を打っていかなければならない。
しかし、「2024年問題で物が運べなくなるから(安全性には多少目をつぶって)最高速度を引き上げよう」というのは、いくらなんでも安直で乱暴すぎるし、実施されれば禍根を残すことになると思う。
前述と通りヨーロッパでも、そして北米でもドライバー不足は深刻だが、「だから制限速度を引き上げよう」なんて話はまったく出ていない。日頃「安全運転第一」を謳っていながら、「2024年問題」を錦の御旗に、堂々とその大前提をないがしろにするのは非常に恥ずかしい話ではないか。
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コメント
コメントの使い方大型トラックの速度抑制を知らない乗用車ドライバーの方が余程恐い
制限速度やリミッター速度の引き上げに反対するのであれば、大型トラックの強引な追越車線への割り込みを徹底的に規制するよう求めるべき。
貨物車の事故が増えているというが、速度が原因ではないから増加しているということだろう。
追越車線を大型トラックが長時間塞ぐことで渋滞の原因となり、事故も増加する。
せめてリミッターを100km/hにすべき。