重トラクタの運転を快適に
この試乗車には、ダミーウエイト20トン積みのアオリ付き平床セミトレーラ(3軸ダブルタイヤ)を連結してあり、トラクタ+トレーラ全体の連結総重量は40トン(最大連結総重量は60トン級)、連結全長も約16mに達する。乗用車のように運転できるクルマではないが、しかし新型GWを走らせるのに必要な労力は、驚くほど少なくて済む。
その筆頭が、標準装備の「UDアクティブステアリング(UDAS)」だ。通常の油圧式パワーステアリングに電子制御電動アシスト機構を組み合わせたメカニズムだが、その特徴は「より正確で、より走行状況に適したハンドリングを実現するステアリングシステム」といえる。
まっすぐハンドルを保持すれば、頑とした直進性を維持し、コーナーでは優れたライントレース性をもたらす。しかも速度に応じてハンドルの重さも変えるUDASの走らせやすさは、従来の油圧パワステの次元を超えるものだった。
しかも横風にハンドルを盗られる現象や、凹凸路面の影響(キックバック)といった不快な動きを排除、さらに車速60km/h以上ではLDP(レーン・ディパーチャ・プリベンション)が作動して車線から逸脱しないようハンドル操作を自動補正するため、この慣れない連結車でも安心して運転することができた。
また、トレーラ連結車のバック車庫入れでは、後につながるトレーラを折って、押し込んで、ハンドルを逆に回してクルマを真っすぐにしながら後進……という「作業」が伴うが、UDASのハンドルの軽さや、操舵に対するタイヤ操向角の正確性の高さなどから、微舵調整の負担が少ないことも美点である。
トルクフルでジェントルな走り
エンジンはGH13型・12.8リッター直列6気筒24バルブ・インタークーラーターボ付で、試乗車は最高出力530PS、最大トルク2601Nm(265kgf・m)の「GH13TC」を搭載する。これは当代の国産重トラクタでは最強の出力・トルクである。
このエンジンと組み合わせる12段AMTが「ESCOT-VII(7)」だ。変速操作は、圧縮エアで自動クラッチ装置と変速機構を動かしているが、「VII」では圧縮エア制御のさらなる改良とともに、クラッチプレート枚数を4→5枚へ増加、伝達トルク容量を拡大したという。
平坦な舗装路でアクセルペダルをほどよく踏み込みながら、時速60km目標で加速してみれば、エンジン回転数をグリーンゾーン(燃費のよい回転数帯)に収めつつ、飛び段でどんどんシフトアップし、淡々とスピードを上げていく。それは「重量物運搬トレーラ」という先入観からはイメージしにくいほど、涼しげな走りっぷりであり、坂道発進さえジェントルにこなすほどだ。
もちろんGH13TCがもたらす低速トルクの余裕も大きいが、ESCOT-VIIの変速の素早さとシフトショックの少なさの効果は絶大である。ESCOT、特にV(5)以降の変速制御は、乗務ドライバーからの評判も良いのだが、最新バージョンの「VII」はさらに磨きが掛かったといえる。
強力なストッピングパワー
一方でGWは、強力な制動性能の持ち主でもある。サービスブレーキの総輪ディスクブレーキとは別に、補助ブレーキとして圧縮解放ブレーキ(EEB/エンジンリターダ)、大容量流体式リターダ(最大ブレーキトルクは3250Nm)を備え、ステアリングコラム左側の補助ブレーキレバーの操作で、サービスブレーキを使わない制動手段が駆使できる。
補助ブレーキの強さは4段階。試乗では、時速60kmで長い下り坂へ進入し、レバーを1・2……とその効きを試しながら操作していくと、行き足はみるみる衰え、4段ではほとんど停止寸前にまで減速できてしまう。
実は、補助ブレーキの能力としてはEEBだけでも十分で、UD販社で扱っている540PSのボルボFH6×4さえ流体式リターダを持たないが、新型GWでは山坂の多い日本の重量物輸送に備えて、強力な流体式リターダを採用したという。UD開発陣からは「ドライバーが安心して運転できること」という言葉をよく聞いたが、その表れのひとつだろう。
なお、ブレーキペダル操作では、実際にはディスクブレーキだけではなく、補助ブレーキと自動シフトダウンブレーキを協調作動させる「ブレーキブレンディング」が機能する。2017年から国産大型トラックで唯一総輪ディスクブレーキを採用するクオンだが、制動性能やパッド交換頻度などのクレームはないとのことだった。
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