恐山~死の彷徨 その9
てっちゃんは猛烈な吹雪の中、真っ赤に錆ついたチェーンと悪戦苦闘しながら、それでもなんとか装着することに成功しました。しかし、車に戻ってきたてっちゃんは、唇は寒さで紫色、まつげは白くなり、さらに鼻水まで凍りついているという、ほとんど雪山遭難者のような姿です。いつもはてっちゃんにひどい仕打ちをするガミさんでさえ、その姿に憐憫の情を覚えたのか、黙ってバナナを差し出します。全員が口には出しませんが、「このまま進んで大丈夫なのか?」という疑問をもっていることは明らかでした。
しかし、誰もそのことを口にしません。誰かが「もういいんじゃないか‥」と言えば、全員が「そうだなあ」と同意することはマチガイナイのですが、後で「あの時、〇〇が『帰る』って言い出さなかったら、絶対に行ってたよなあ」と言われ、撤退の責任を全部押し付けられることは明らかだからです。(過去の経験が物語っています)
車内には重い沈黙が流れ続けます。全員が「誰か『帰る』と言ってくれ!」と願いつつ、「自分からは言わない」という状況が、この後、延々と続くことになります。「北へ帰る人の群れは誰も無口でぇ~、天気予報を聞いているぅ~」。(阿久悠:作詞&三木たかし:作曲「津軽海峡冬景色」より)そのラジオから流れる天気予報は「津軽海峡付近に大型の低気圧発生。これから天気はさらに大荒れ」と告げています。ねえねえ、帰るなら今だよぉ~!(どこまで続くの?) 山高一浩