ルーツは3年で消えた「スターリング」向けだった
「FL360 715」が辿ってきた足跡は意外に複雑です。メキシコ市場に初めて導入されたのは2008年2月で、なにより名称が「スターリング360」でした。そして「360」はもともと、米国・カナダ市場で06年2月から発売されていた一世代前のTEキャンター系をベースとするクラス3~5車だったのです。
まず、この「スターリング」というブランドは、ダイムラークライスラー(当時)が1996年に買収したフォードのクラス8大型トラック事業を継承するブランドとして、98年に新たに立ち上げられたものでした。
06年に設定された「スターリング360」は、ほぼ同時期に登場した「スターリング・ビュレット」(クライスラーの「ダッジ・ラム」べースのフルサイズピックアップトラック)とともに、米国のダイムラー・ブランドであるフレイトライナーやウェスタンスターとは異なる、スターリング独自のラインアップを構成していたのです。
TE系キャンターベースの「スターリング360」には、フロントにスターリングのエンブレムと、Sterlingロゴを内蔵した専用グリルが装着され、ステアリングホイールにもスターリングのエンブレムを刻印するなど、三菱ふそうの米加市場向けキャンター(当時は「FE」と呼ばれていた)に対して、ブランド差別化が行なわれていました。
ところがメキシコ市場にも投入された08年の秋、ダイムラークライスラーが「スターリング」のブランドとカナダの旧フォード工場を、09年で廃止することを発表したのです。米加市場向け「360」も、わずか3年という短いモデルライフで終わりました。
ブランドが継続されたメキシコでは大中型トラックも追加
いっぽう、フレイトライナーの大中型車とともに「スターリング360」を販売していたメキシコ市場では、廃止されることなく、ブランドを「フレイトライナー360(FL360)」に改めて展開を継続し、前述のとおり19年には、現行TF系へのフルモデルチェンジも果たしました。
かつては日本製完成車の輸入関税が高額で、輸出したところで商売にならなかったメキシコでしたが、2004年の日本・メキシコEPA(経済連携協定)締結でようやく関税が大きく引き下げられた成長市場だけに、撤退する理由もなかったのでしょう。
さらに「FL360 715」の全面改良に先立つ2017年、「FL360」が新たな展開をみせました。
本家フレイトライナーにはない大中型COEトラックとして、GVW10.5tクラスの「FL360 1017」、GVW12tクラスの「FL360 1217」、GVW25tクラス6×2の「FL360 2528」が追加されたのです。
これらの大中型FL360車は、ダイムラートラックと三菱ふそうが共同開発し、インドで生産されている新興国向け「FUSOトラック」のフレイトライナーブランド車で、それぞれ「FL360 1017」は「ふそうFA1017」に、「FL360 1217」は「ふそうFI1217」に、「FL360 2528」は「ふそうFJ2528」に相当しています。
「FUSOトラック」が非FUSOブランドで投入されるのは、インド国内向け(バーラトベンツ)とインドネシア向け(メルセデスベンツ)以外にあまり例がありません。
また、2020年をもってオリジナルCOE車(クラス8の「アーゴシー」が存在していた)の生産を終了しているフレイトライナーにとっても、唯一のCOEモデルとなるものです。
フレイトライナーブランドのインド製FUSOトラックも、エンブレム・バッジ類が「FL360 715」と同様に変更されていますが、こちらはステアリングホイールのエンブレムも差し替えられています。
ということでフレイトライナーメキシコは、いまや米国(実はフレイトライナーはメキシコ工場でカスケディアや114SD、M2を生産している)、日本、インドのトラックが、同じブランドで集結するという珍しい市場になっています。
なお、インド製大中型「FL360」の販売も徐々に拡大しているそうで、メキシコ市場で受け入れられているようです。
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