10年前と比較すると……
長期的にみると陸運業の死亡災害は減少傾向にあり、10年前と比較すると26.4%減少している。しかし、休業4日以上の死傷災害は増えており、10年前から21.1%の増加となった。
「交通事故」はマイナス42.2%、「墜落・転落」はマイナス45.5%、「はさまれ・巻き込まれ」はマイナス31.3%と大きく減少するいっぽう、腰痛等の「動作の反動・無理な動作」がプラス52.1%、「転倒」がプラス43.1%と、大幅に増加しているのが現状だ。
死傷災害の増加は、これらの作業行動による災害の増加が影響している。
令和2年の労災発生状況を分析したところ約65%が荷役作業時に発生し、起因物ではトラックが約30%、RBP等の人力運搬機が約10%を占めていた。
発生件数が最も多い墜落・転落の70%はトラックからの墜落・転落で、そのうち約90%はトラックドライバー自身が被災していた。また、被災場所の70%を占めたのが荷主先(発・着荷主)で、荷主企業との連携・協力も重要になる。
厚生労働省は平成25年に「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」を策定し、その普及・定着を図ってきたが、労働災害の増加を受けて令和3年に検討会を設置し、対策の在り方の検討を行なっている。
中でも重点的に取り組んでいるのが次の5点だ。
・トラックの荷台からの墜落・転落災害防止対策
・RBP及びテールゲートリフターを利用する荷役作業における安全対策
・その他の荷役作業における労働災害防止対策
・荷役作業に係る安全衛生教育
・荷主等庭先での荷役作業についての荷主等の役割
特にRBP取扱い中の災害は、その約8割がRBPの不適切な取扱いが原因となっており、安全対策の徹底が必要だ。
厚労省はリーフレット「改良しましょうロールボックスパレット 3つのポイントを提案します」を公表するとともに、荷役作業を始める前の点検に使えるよう、RBP及びテールゲートリフターの作業前点検用チェックリストを作成し、関係団体に周知している。
労使双方の努力が必要
令和3年は、陸上貨物運送事業労働災害防止計画(2018年度~2022年度)の4年度目に当たる。計画では次のような目標が設定されている。
・死亡者数を2018年から5か年中に15%以上減少させる(2022年に、死亡者数を87人以下とする)
・死傷者数を2017年から5%以上減少させる(2022年に、1万3971人以下とする)
・健診の完全実施及び健診結果に基づく有所見者に対する適切な事後措置の徹底を図る
今年(2022年)は計画の最終年度に当たるが、1~3月の速報値は死亡災害・死傷災害ともに前年を上回って推移している。その前年も数値目標を達成できていない以上、より強力な取り組みを進めなければ目標未達となる可能性が高い。
また、長時間労働による過労死等も重大な問題となっている。時間外労働の上限規制による物流の2024年問題もそうだが、労働災害の増加とトラック運送の諸課題は相互に関連している。職場の安全衛生管理体制を適切に機能させなければ、運送業の健全な発展は望めない。
ドライバーの高年齢化に伴う労災の増加など、事業者の対策だけでは防ぐことが困難な場合もあるため、経営者から現場のドライバーまで意識を共有した上で、労使双方が基本的なルールを遵守することが重要だ。
そのためには時間的・人的に余裕のある業務体制を構築する必要がある。日々の業務に潜む危険を最も熟知しているのは、現場で働くトラックドライバーだ。労働災害の大幅増を「残念な結果」で終わらせないために、ドライバー個人にも意識改革が求められている。
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