燃料電池トラックの実燃費は!? ダイムラーが「GenH2」顧客トライアルを完了し次世代モデルの開発をスタート

燃料電池トラックの実燃費は!? ダイムラーが「GenH2」顧客トライアルを完了し次世代モデルの開発をスタート

 ダイムラー・トラックは2024年から実施していたFCEVトラックのカスタマートライアルを完了した。液体水素を燃料とするプロトタイプ車両5台をアマゾンなど5社の日常業務に使用したもので、水素の平均消費量=燃費データなども公開された。

 今後は同じ車両を用いる第2ラウンドのトライアルと、100台規模に拡大するためのアフターセールスの強化、2026年末以降に導入予定の次世代モデルの開発と少数量産などを予定している。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck AG

走行距離は地球5.5周分! MB「GenH2」のトライアルが完了

燃料電池トラックの実燃費は!? ダイムラーが「GenH2」顧客トライアルを完了し次世代モデルの開発スタート
トライアルでの「燃費」(100km当たりの水素消費量)。平均GCW16トンのアマゾンで5.6kg、33.5トンのエアプロダクツで8.0kgだった

 ダイムラー・トラックは2025年9月3日、液体水素を燃料とする燃料電池電気自動車(FCEV)実証用のプロトタイプ車両、メルセデス・ベンツ「GenH2」(じぇん・えいちつー)トラックの約1年に及ぶカスタマートライアルを成功裡に完了したことを発表した。

 2024年7月にスタートしたトライアルは5台のGenH2を5社の顧客のもとで実際に運用するというもので、その5社とはエアプロダクツ、アマゾン、ホルシム、イネオス、ヴィードマン&ヴィンツだ。業種も様々な5社が普段の物流業務の中でGenH2を試験し、実際の使用条件下で車両の信頼性・効率性を確認することが目的だった。

 5台のプロトタイプの合計で走行距離は22万5000km以上に達した。これは地球を約5周する距離に相当する。仮に同じ距離を連結総重量25.6トンのディーゼル車で走行したとすると、約5.8万リットルの軽油を消費し、154トンのCO2を排出する。

 GenH2プロトタイプには、ダイムラーとボルボ・グループの合弁会社であるセルセントリック社が開発・製造した出力300kWの燃料電池システムと、70kWh容量のバッテリーが搭載される。約1年間の各社の平均総重量は16トンから34トン、平均水素消費量は100km当たり5.6kgから8.0kgだった。

 ちなみに、FCEV大型トラックの燃費に関しては、米国のニコラが公開したことがあり、累計55万マイル走行時点で水素1kgあたり7.2マイルというものだった(同社は2025年2月に破産)。100km当たりの水素消費量になおすと約8.63kgだ。北米と欧州では条件が異なるので単純比較はできないが、GenH2では相応に燃費も向上しているようだ。

 メルセデス・ベンツ・トラックスの車両開発責任者を務めるマイケル・シャイブ氏は次のように話している。

「最初のカスタマートライアルは、燃料電池トラックを開発していく上で非常に貴重なものです。『GenH2』を実際の物流現場に投入し、様々な用途における性能と信頼性、効率性を実証し、重要な知見を得ることができました。

 この知見は、量産化に向けて実際のニーズに合わせた技術を開発し、車両を改良していくために役立ちます。

 トライアル期間中は液体水素ステーションを積極的に活用し、燃料補給プロセスの最適化も目指しました。こうした実践的な経験は、今後水素トラックを導入する際の販売・サービス体制を整えるためにも不可欠なものです」。

実用性は運送会社も太鼓判だがコストは……

 トライアルではメーカー(ダイムラー)が直接的な監督責任を負うとされ、5台のGenH2がドイツ国内の特定のルートで様々な輸送を実際に行なった。例えばアマゾンの輸送では、フランケンタールのフルフィルメントセンターとジンデルフィンゲンの配送ステーション間の専用ルートに投入された。

 顧客からの直接的なフィードバックにより、FCEVは日常の物流業務にシームレスに統合できることが確認された。特に1充填あたり1000kmを超える長い航続距離と、10~15分という短い補給時間は今日のディーゼル車と変わらない使い勝手で、トライアルに参加した顧客は高い実用性を強調している。

 バッテリーEV(BEV)トラックが苦手とする長距離輸送や柔軟なルート、計画外の配車などにも適していることが確認され、実際にハンドルを握ったドライバーからは、ダイナミックな駆動力とスムーズな乗り心地、低騒音などが高く評価された。

 顧客が実用性について高く評価するいっぽう、水素ステーションの未整備は大きな課題となっており、極低温の液体水素「sLH2」となると技術的なハードルもある。ダイムラーはFCEVトラックを大規模に運用するには欧州全域で2000か所の水素ステーションが必要だとしている。

 また、高騰しているグリーン水素価格や車両保険の高さなどを考慮すると、「総保有コスト(TCO)においてディーゼル車を超えることは、現時点では不可能」というのがトライアルに参加した顧客の指摘だ。

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