米国ではトランプ政権の誕生により環境政策が大きく転換された。トランプ氏が就任前から強く批判していたのがトラックの電動化で、事業者にEVトラックの購入を義務付けるカリフォルニア州の規制は事実上の廃止となり、前政権下で与えられた認可についても取り消しが決議された。
州政府と連邦政府の「規制の綱引き」により法令に矛盾が生じ、大混乱に陥っているのがトラック業界だ。独禁法違反を指摘され、司法省から「(州規制への)コンプライアンス遵守を直ちに止めろ」という書簡を受け取った大手トラックメーカー各社は、連名でカリフォルニア州の規制当局及び州知事に対して訴訟を起こす異例の事態になっている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/International Motors
トラックメーカーが州を提訴
2025年8月11日、米国の大手トラックメーカー各社が連名でカリフォルニア州大気資源局(CARB)及び同州のギャビン・ニューサム知事に対する訴訟を起こした。
トラックの電動化などを求めるカリフォルニア州の規制が、連邦政府により事実上廃止された後も、同州がメーカーに対して規制の順守を求めているとして、メーカーが州の規制に従う必要がないことを確認するための裁判だという。
カリフォルニア州東部地区連邦地方裁判所に提出された書類では、原告としてダイムラー・トラック・ノース・アメリカLLC、インターナショナル・モーターズLLC(旧ナビスター)、パッカーINC.、ボルボ・グループ・ノース・アメリカLLCの社名が確認できる。米国の大手トラックメーカー7社は、全てこの4グループに所属している。
なお、日本の公正取引委員会に相当する米国のFTCは自動車メーカーとCARBが2023年に締結した「クリーン・トラック・パートナーシップ」について独占禁止法上の懸念があるとしていたが、訴訟によりパートナーシップは崩壊し、FCTによる調査も終了したようだ。パートナーシップには前述のトラック4メーカーの他にエンジンメーカーのカミンズ、乗用車のGM、フォード、ステランティスが名前を連ねていたが、これら4社は訴訟には加わっていない。
米国のカリフォルニア州は厳しい環境規制を全米に先駆けて導入することで知られ、州の規制当局であるCARBの方針は他州や他国の環境政策にも影響を与える。
トラックに関する規制としては、メーカーが州内で販売できるトラックをゼロ排出車(ZEV)に制限する「アドバンスト・クリーン・トラック(ACT)規制」や、これを発展させて事業者にZEVの購入を義務付ける「アドバンスト・クリーン・フリート(ACF)規制」、厳しいNOx(窒素酸化物)排出規制により内燃エンジン車の販売を制限する「オムニバス規制」などがあった。
こうした規制については、米国トラック協会(ATA)なども「合理的な水準をはるかに上回っている」として懸念を表していたほか、トランプ大統領は選挙期間中からオバマ・バイデン政権の環境政策を「グリーン・ニュー・スカム」(環境保護を名目にした詐欺行為)と呼んで批判していた。
州政府が連邦政府より厳しい規制を導入するには米国環境保護庁(EPA)の認可(免除)が必要だが、トランプ政権の誕生により免除申請が取り下げられ、ACF規制は事実上の廃止となった。トランプ政権は残りの規制についても前政権が与えた認可を取り消す決議を行なっており、カリフォルニア州などと連邦政府の間で裁判になっている。
訴状によると、米国司法省はトラックメーカーに書簡を送り、カリフォルニア州の規制は連邦法に違反しているため、「規制をただちに無視し、コンプライアンス遵守しないよう」求めたという。
いわば州政府と連邦政府がトラックの電動化・排ガス規制を巡って「綱引き」をしている状況で、メーカーとしてはどちらの基準に従えばよいのか確認するというのが今回の裁判の趣旨のようだ。
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