自動車輸送などを手掛けるドイツのデューベンベックは、MANのバッテリーEV(BEV)トラック「eTGX」をフォルクスワーゲン(VW)の工場への輸送に初めて投入した。
VWグループに属するMANのBEVトラックは、同社が「排出ゼロ」のサプライチェーンを拡大する上で鍵となる。ドイツの自動車業界が求める大量輸送の要件として高容積を確保できる「超低床トレーラ」があり、他社のBEVトラックでは成立が難しかったそうだ。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/MAN Truck & Bus・Duvenbeck
VWの工場物流に初めての電動トラック
ドイツの商用車メーカー、MANトラック&バスが同国の輸送プロバイダー、デューベンベックに最初のBEVトラックを引き渡したことは、貨物輸送の電動化において新たなマイルストーンになるかもしれない。
MANの「eTGX」ウルトラローライナーはドイツの自動車業界が求めている「高容積型」の要件を満たすセミトレーラけん引車だ。フォルクスワーゲン(VW)の大型商用車部門であるトレイトングループに属するMANのBEVトラックは、VWの工場物流に投入され、同社のサプライチェーンからの排出を削減する。
また、両社は注文意向書(LOI)に署名しており、2026年までにデューベンベックは最大120台のeTGXを導入する。こちらもVWの工場物流の一環としてドイツのライン=ルール都市圏やベネルクス地域(ベルギー・オランダ・ルクセンブルクの3か国)の様々なエリアに、MANのBEVトラックを展開するそうだ。
MANのセールス&カスタマーソリューション責任者のフリードリヒ・バウマン氏は次のようにコメントしている。
「MANはウルトラローライナーで自動車業界の物流要件に完全に適合したBEVトラックを開発しました。他社の量産型BEVでは、荷台内法高が3メートルに達する高容積トレーラをけん引することはできません。このトラクタは容積型の大量輸送要件に対して理想的な選択肢です」。
いっぽうのデューベンベックも持続可能性を企業戦略の中心としており、「グリーン・ロジスティクス」イニシアチブによって排出を減らし、資源を節約する輸送ソリューションを重視している。
そのためにはディーゼルエンジンに代わる代替駆動系の活用と、空荷での走行を減らし積載効率を向上すること、充電コンセプトの革新なども重要だ。MANのBEVトラックはこうした要望に応え、サプライチェーンからのCO2排出量の最小化に貢献する。
このトラックはVWのヴォルフスブルク工場に部品を供給する予定となっており、同社のロジスティクス責任者のシモン・モッター氏はプロジェクトの重要性を強調して次のように話している。
「私たちのパートナーであるデューベンベックは大胆な一歩を踏み出しました。VWのヴォルフスブルク工場で初めてMANのBEVトラックが使用されます。すなわちこの技術が日常的な利用に耐え、コスト競争力を持っていることが証明されたのです。
長期的にみて道路輸送のCO2削減において最も重要な手段がBEVトラックです。グリーン電力による鉄道も重要な輸送手段ですが、常に利用可能なわけではなく、鉄道が利用できないならトラックしかありません。また、『クロスモーダル』というコンセプトでは、長距離輸送に鉄道を活用しつつ、中・短距離輸送と貨物駅への輸送にはBEVトラックを活用するなど、それぞれの強みに応じて使用されます」。
このBEVトラックが同クラスの先駆者となったのは、重量よりも容積を重視するための「超低床」という点で、まさに自動車部品の輸送のための車両となっている。
トレーラの内法高3メートルを確保するにはカプラー(トラクタ・トレーラの連結器)の地上高を950mmに抑える必要があった。低床化によりスペースの余裕は少なくなるがバッテリーへの影響は回避しており、4~6個のバッテリーパックを搭載可能で最大500kmの航続距離を確保した。
なお、車両は自動車メーカーの系列ではない独立系レンタル会社のTIPの保有車両となっており、同社を通じてデューベンベックに提供される。
持続可能な物流に対する需要が高まるいっぽうで、BEVトラックの車両価格の高さは普及に向けた壁となっており、需要の変化に柔軟かつ迅速に対応する上でレンタル会社のサービスもまた物流のゼロエミッション化に欠かせなくなっている。
【画像ギャラリー】VWの工場物流に導入されたMAN「eTGX」(2枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方