追想記(消えた道 其の十七)
その頃の私は長距離ドライバーになって間がなく、全国道路地図を眺めてはよりよい近道を探していた。諸先輩連から教えてもらう、一けた台、もしくは二けた台の一級国道だけではなく、自分だけの近道を探し出し、時間短縮を図る。それは、国道だけではなく、時には県道にまで至る場合もある。
もちろん、そのようにして実際に走って見ると、余計に時間がかかる場合もあれば、時間短縮が出来る場合もある。また、思わぬ風景に出くわし、長距離ドライバーならではの、楽しみを発見することもあった。そして、それがうまく思惑通りにいった時は、達成感に、ひとり悦に浸ったものだ。
だが、それは後になって知ることになったのだが、経験の浅い多くの長距離ドライバーが考えることであり、経験することだった。当然、ドライバー同士の会話の中で、自慢話や失敗談になって笑わせる格好のエサになった。
国道161号線もそのような経緯で走るようになった道だった。
「適切な配慮だったのだろうか……」、自分自身への疑問が首をもたげてきた。国道161号線を走る理由の本音を語らず、つい玲子の私への気持ちが取らせた出雲崎に行ったという行動に合わせて、嘘をついてしまった。もしあの時、本音の理由を言うと、彼女の気持ちに水を差す気がしたからだけど……。
何気なく、玲子が先ほどまで座っていた助手席に目をやった。そこには、古ぼけたタオルが四枚折りでペタンと圧縮されたままでいた。それは、彼女から溢れ出したものが座席シートを濡らしていたので、スカートが濡れないように使い古しのタオルを渡したものだ。
否応なく、視覚から入った先ほどの甘美さが、頭から足先まで、静かに通り抜けていった。が、その時、玲子の言った最後の言葉を思い出した。
「今日あなたに肌を許したのは、過ちは過ちなのよね。でも、それをステップにしなきゃね」
その言葉は、将来への期待がある言葉ではない。だとすれば、なぜ彼女は、キャンプの時だけではなく、今日も期待を抱かせると言ったのだろうか。
しかし、それは自分の考えすぎだとすぐに気がついた。期待感を持ったからといって、実行に移せるというわけではない。まして、ただ一点を除いて、前夫とは比べ物にならないくらい、幸福感を享受している。つまり、ただ単に、私の言葉に期待感を持たされた、と言いたかっただけに過ぎない。
それは、このトラステで玲子に最初に感じた距離感……。まさしく、その通りのことだった。
前夫と別れたがっていたキャンプの時の期待感は、その現状からの脱却が玲子の頭の中にはあったに違いない。しかし、今はそこまでの気持ちはないはずだ。それは、玲子が取った距離感ではっきりしている。そして、今日の「過ち……」。それではっきりしている。
そして、私を心の拠り所にしていたと言う玲子……。その時、初めて彼女の気持ちに気がついた。彼女の方こそ、私に対する気遣いがあったのではないかと……。
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