元ベテラン運転手 トラさんの「泣いてたまるか」No.112 

元ベテラン運転手 トラさんの「泣いてたまるか」No.112 
追想記(消えた道 其の八)
もう一度、この人の言葉を反芻して、結論らしきものを導き出そうと試みた。
キャンプの間は、お互いが特別な人だった。その後も、この人はオレを意識していて、離婚まで決心させた。いや、違う。オレのような人を意識していた。それは、前のご主人の優しさが見せかけの衣に過ぎなかったからで、本物の優しさを求めたからだ。そして、今のご主人と知り合った……。ありがとうの意味が理解できた気がした。
だが、キャンプの間オレが特別な人だったということと、その後、オレのような人を求めたと言うのは、オレを諦めていたということになる。
「つまり、今のご主人は、本物の優しさを持っているということですね」
「そうね」
 すぐに答えた割には、返事は弾んでいなかった。何となく今のご主人の話題を避けたがっている気がする。そこで、質問を変えることにした。「あなたのような……」。その言葉が、耳にこびりついて離れなかったからだ。
「あの、出雲崎のことですけど、そこに行ったのは、辛かった時の緊急避難的な場所としてですよね」
幾分、キッとなった顔つきになった。
「言ったでしょ。あなたを案内したかったって……。あら、ごめんなさい」
すまなさそうな消え入る声と同時に、顔も下を向いた。
「いえ、オレの方が無粋なことを言いました。すみませんでした」
確かにトラステの前ではそう言ったが、さっきの話では違っていた。だが、その人は俯いたまま声を出そうとしなかった。
何をどう話しかけたらいいのか判らないまま、時間だけが流れて行き、次第に気まずい雰囲気になっていった。まずい、このままではいけない。焦りが自然に言葉になって表れた。
「ただ、出雲崎に行ったのが、オレを求めてなのか、それとも、誰でもいいから優しさを求めてだったのか、それが気になったんです」
ふう~っと、小さな溜息が漏れた。
「何故、今頃になってそんなことを聞くの?」
俯いたまま、小さな声で言った。
「いえ、ただ、今日の話の流れで……」
「そう、話の流れなのね。そうよね……」
ただ、それだけ言って、また口をつぐんだ。その様子には、何か私の反応を試しているかのように感じられた。
「すみません。言葉のあやというか、どう説明したらいいのか、分らなくて。出雲崎にあなたが行った本心を知りたいと思ったんです」
「そうよね」と、言って、今度は顔を上げて話始めた。 
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