元ベテラン運転手 トラさんの「泣いてたまるか」No.111

元ベテラン運転手 トラさんの「泣いてたまるか」No.111
追想記(消えた道 其の七)
「いや、違う」と、心の中で首を振った。オレはあの時、魅力的な目の前のこの人に、性的な欲望が、キャンプという楽しさを追求する閉鎖された社会の中で、周りの雰囲気も手伝って盛り上がっていたに過ぎない。第一、名前さえ覚えていないではないか…… と、言い聞かせた。
「あの頃の私ね」と、言葉を区切り、話を聞いてくれと言わんばかりに私を見つめた。
「ええ」次の言葉を促した。
「あの時に話したと思うけど、精神的にどん底だったの。それで、あのキャンプに参加したんだけど、リーダーシップの研修とか、親睦を図るなんてどうでも良かった。ただ、現実から少しでも逃げたかったのよ。あなたは、親身になって話を聞いてくれたわ。そんなあなたに、周囲の人には誰にも話せない事まで、喋りまくっちゃった」
照れくさそうな笑みを浮かべて、言葉をいったん区切った。
「何となく解ります。親しい人には話せないことが、一期一会の人には案外話せたりしますよね」
その人の顔に、我が意を得たりと言う表情が浮かんだ。
「そうなの。最初はこの人なら、何でも受け止めてくれると思って、自分の気持ちをさらけ出したのよ。そして、想像通りの人だったわ。そしてね、それだけじゃなくてキャンプの後も、あの時の余韻に浸っていたのね」
また、私の方をチラッと見た。話を続けても良いかという合図だ。
「あの後も、オレのことを考えててくれたんですか」
「うん」と、小さく頷き話し出した。
「前の主人とは会社で知り合ったんだけど、彼の噂は自己中でダメだって女性同士の間では悪かったの。でも、恋愛経験のなかった私は、彼の熱心さにほだされてしまって……。彼は、恋愛中は凄く優しかったけど、結婚してからは自分以外の人は、全てが利用されるモノという感覚しか持ってなかったのよ。だから、そんな扱いをずっと受け続けていたのね。
だから、元々キャンプに私が行くことには反対だったから、その後、凄く風当たりが強くて、我慢できずにあなたが言った出雲崎に避難してたのね。その度に、キャンプの楽しかったことやあなたを思い出してたわ。そしてね、きっと、あなたのような優しい人が、私を受け止めてくれる人が、必ずいるって思い込むようになってたの」
ん? あなたのような……。オレの変化に気が付かなかったのか、その後も話は続いた。
「そしてね、翌年の春には実家に逃げ帰ったのよ。離婚前提の別居ってわけ。その後彼は、恋愛中に突然変異して復縁を迫って来たけど、あなたの本物の優しさを思い出して、離婚調停をすることにしたのよ。彼の優しさは、その場しのぎのものでしかないけど、あなたは違っていた。随分と心の支えになったわ。ありがとう」
その人は、ありがとうと言葉と同時に、頭を下げた。
「いえ、とんでもない」と、答えたものの、話のまとまりがよく見えなかった。
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