追想記(ニニ・ロッソの調べに誘われて 其の三)
家内と一緒にこの店に来た頃は、幾分、借金苦から緩和されていた。だからこそ、九州にいた家内を当時働いていた三重県に呼び寄せたのだ。
久しぶりに来たこの店の駐車場には相変わらず「ニニ・ロッソ」のトランペットが流れていた。同じLPと思われるものを、飽きもせず繰り返し流しているこの店の店主は、一体どんな人だろうと考えてみたことがある。しかし、せん無いことだと気がつき、止めた。
家内は、駐車場に流れる「ニニ・ロッソ」には無頓着に店の中に入って行った。そして、ひとしきり見て回った後、「いぶりガッコ」を買った。それは「たくあん」を燻製にしたもので、以前食べたことがあるらしく、ルンルン気分だった。
また、「フキ」は「秋田ぶき」といって、大きく育つ特産の物だと、その時家内から教えてもらった。東京での洋裁の修行時代、秋田出身の人がいて、その人の話では「雨の日にはカサ代わりになる」というくらい大きく育つらしい。その上、栄養価もかなり高い代物だそうだ。その時、フキの製品も買ったのだが、何だったかは覚えていない。
店を出た後は、すぐに出発した。何も、家内がいたからではない。その頃すでに会社を替わりトラックを新車に乗り換えていたので、カーステレオがあったからだ。この店の外に流れる「ニニ・ロッソ」に敢て浸る必要がなくなっていた。
その後も、家内から「いぶりガッコ」をお土産に頼まれていたのだが、ついに、この店には来る機会がなかった。この店の前の国道7号線は幾度か通った記憶はあるのだが、時間帯が遅く買い物で出来る時間帯ではなかった。
そして、あれほど「ニニ・ロッソ」の調べに誘われるようにして入って行った駐車場にも、自分自身の関心が薄らいでいた。
時々思う。
あの頃、「ニニ・ロッソ」のトランペットの音色に餓え、また、金銭的な苦労が故の睡眠不足による過労。最悪だった自分の人生の一幕に登場したあの店のBGMは、俺にとって何だったのだろうと……。
あの店は、まだ、仁賀保の地で存続しているのだろうか。そして、40年前に発売されたLPの音源で、まだ「ニニ・ロッソ」が繰り返し流れているのだろうか……。 (この項了)
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