元ベテラン運転手 トラさんの「泣いてたまるか」No.63

元ベテラン運転手 トラさんの「泣いてたまるか」No.63

トラックドライバーの誇り その61

運送業界の皆さん、とりわけ経営者の方へ。

祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす おごれる人も久しからず ただ春の世の夢のごとしたけき者も遂には滅びぬ・・・・。 
ご存じ、平家物語の冒頭の部分である。
「栄枯盛衰」の言葉が、この平家物語から出たものか、それ以前から使われていたのかは知らないが、「盛者必衰の理」の本質を表しているとつくづく思う。

現代のひとつの例として、洋裁業界がある。亡くなった家内は、中学を卒業して死ぬまでの60年間、洋裁師として生涯を通した。だが、彼女の人生の中で洋裁師として輝いたのは、何年間あったのだろうか。彼女の人生が、洋裁業界の栄枯盛衰そのものだった。
現在、オートクチュールをはじめ、多くの洋裁店が店じまいをしている。しかし、需要がないかといえば、決してそうではなく、頼むところがなくて困っている中高年の女性は多い。店をたたむ原因は洋裁師の不足である。原因を作ったのは、他でもない客と経営者だった。もちろん、生地の納入業者にも責任はあるだろう。

一人前の洋裁師になるには専門学校に行き、卒業した後、数年間店で修業してから、やっと一人前の職人になる。だが、その給料がどれくらいなのか、ご存じだろうか? 
家内の最盛期、一着縫って5万円だった。それを仕上げるのに夜通し7~10日間ほど頑張っていた。ざっと言えば、月に10万円前後が彼女の収入だったのだ。それも、腕のいい職人としての評価がありながらである。現在、専門学校を出ても、2~3か月で洋裁師を諦める子が多く、全く後人の育成が出来ない。当たり前の話で、縫ってナンボの世界で、一人前の職人になるまで小遣い程度の収入しか得られないのである。
それよりも、アルバイトやパートの方がはるかにマシなのだ。やっと一人前になっても、パート労働者と同じ程度の収入で携わる時間は倍以上。誰も、洋裁師なんかにはならないのは当然だ。
そのからくりは、仮に生地が10万円だった場合、洋装店は5~7万円程度で仕入れる。それが完売すればそれなりの利益になるが、売れ残った場合は、経営者の負担である。また、見込み違いで全く売れない場合もある。それに対して、それほどの生地だと、縫い賃は同程度の10万
円前後だ。客は、それが高いとクレームを付ける。縫い賃は、経営者と縫い子である洋裁師との折半が普通だ。もうお分かりと思うが、一着縫うのに7~10日かけてそれくらいの収入にしかならない。客の無理解と、それを説得できない経営者。
現在の、トラックドライバーと経営者、そして、荷主の関係が浮かび上がってくる。

「洋裁の灯が消えても仕方ないね」
晩年、寂しげにぼそっと洩らした亡き家内の言葉が忘れられない。

おごれる者久しからずや。次回は、運送業の話に戻します。

トラさんのブログ「長距離運転手の叫びと嘆き」
http://www.geocities.jp/boketora_1119/

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