山形県や秋田県では7月25日から降り続いた記録的大雨によって大きな被害がでた。近年、異常気象が引き起こす災害は、毎年のように発生している。
一般論として異常気象時には「不要不急の外出を避ける」ことが望ましいとされるが、職業として働くトラックドライバー等にとってはそう単純なハナシではない。
いっぽうで国土交通省は、2020年2月より異常気象時の判断基準となる「台風等による異常気象時における輸送の目安」を設定。危険が及ぶような荒天時(大雨や暴風など)に、運送事業者の判断で輸送の拒絶や中止するこができる目安が定められている。
では、実際のところ運送事業者は頻発する異常気象にどう対処しているのか? 静岡の現役トラックドライバー、鰻さんにお聞きした。
文/トラックドライバー鰻さん、写真/トラックマガジン「フルロード」編集部、図/国土交通省
*2023年12月発行トラックマガジン「フルロード」第51号より
大雪と大雨のエピソード
私は今までに大雪と大雨でハマったケースがありました。
大雪は、関東定期便をしていた時に、2回ありました。2回とも関東に大寒波がきて大雪になった時です。
1回目は、午後イチに静岡を出発し、御殿場あたりから大雪で渋滞がはじまり、止まったり動いたりを繰り返し、横浜町田出口手前で動かなくなり、出口を出るまで6時間もかかりました。
その後、配送先に着いたのが翌日の朝でした。静岡に戻ろうとするも、高速は通行止め。解除の見込みもなく、一般道を走り会社に戻ったのが、その日の深夜でした。
2回目は夕方出発でしたが、その時点で高速は一部通行止め。なんとか高速で厚木まで行き、通行止めのため下道に下ります。
その時点で日付が変わっていましたが、一般道も大渋滞で、1箇所目の配達先に着いたのは翌昼。2箇所目は夕方に到着、出発から24時間が経ち、日帰りの定期便が1泊2日の行程になってしまいました。
最近は大雨による災害も多く、2022年9月と2023年8月に、静岡県内は大雨により東名・新東名が通行止めに……。
迂回路である一般道も冠水などで、通行できない箇所がありました。地場の定期便で、高速を使うと片道1時間なのですが、一般道への迂回と大渋滞で、酷い時は5時間近くかかりました。
異常気象時の実際の対応は……
大雪・大雨いずれの時も、事務所なり配車担当から「今どこ?」みたいな状況確認はありましたが、会社から具体的な指示がなく、自分で交通情報を調べたり、ドライバー仲間と連絡をとって運行していました。
運送会社は規模が小さく、夜間・土日・祝日と、電話番の人はいても、指示ができる人や責任者がいない会社も多いと思います。国としても「異常気象時における輸送の目安」を定めたり罰則もあるそうですが、現実的には「どうなんだろ~?」と思います。
大雨の時、物流を統括管理しているところから「運行が危険な場合は、安全な場所に停車して下さい」と連絡がありました。しかし、荷主側の事情もあり「運行継続可否の判断は各運行会社に任せます」とのこと。
ある意味責任転嫁というか、罰則逃れのための連絡だと思いました。自分が運んでいた荷物は通信販売の商品で、中には消費者から注文された物もあります。
荷主側からすれば、発送できないと問い合わせも入りますし、場合によってはクレームになることも考えられます。ですから「発送はしましたが、天候・交通事情で配達が遅れています」のほうがお客様にも説明がつき、体裁もいい。「荷物を発送しない」って考えがあまりないように感じます。
また、発送を中止しても残貨するだけで、翌日以降の発送物量が増えます。荷物が多いなら「増便すれば?」と思うかもしれませんが、そのぶんの費用負担が発生するので、むずかしいところもあると思います。
また、お弁当・惣菜等の食品は賞味期限があり、対応がむずかしいケースもあります。それ以外にも配車の関係もあります。例えば、A、B、Cの各地点を回って一航海とする運行があったとします。
局地的な大雨などAの地域で災害が発生しており、B・Cの地域には気象問題がない。そういう場合でもAでの遅れが、B・Cの便まで影響します。
車両台数がある大手や、協力会社などで別車対応できる会社ならいいですが、中小の会社だとむずかしい場合もあり、遅れても運行しなければいけないこともあります。
異常気象時でも物流を止めて安全確保するというよりは「異常気象時は、いつもより気をつけて運んでね」って感じですね。気象は自然現象ですし、誰にもどうすることもできません。
最近では、異常気象などの天候を理由に従業員の安全確保などのために臨時休業するところもあります。物流においても出荷・着荷の荷主さんや、エンドユーザーであるお客さんに状況説明・理解を得た上で、荷物を運ぶドライバーの安全を最大限確保して欲しいです。
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