安全性アップを目指す「インドのベンツ」! 電動化はしばらく先?【インドのダイムラートラック工場訪問・後編】

安全性アップを目指す「インドのベンツ」! 電動化はしばらく先?【インドのダイムラートラック工場訪問・後編】

 世界最大の大型商用車メーカー・ダイムラートラックは、インドで大型・中型トラック「バーラトベンツ」を展開しています。その生産拠点であるオラガダム工場の取材レポート後編では、同社の首脳陣の記者会見から、いままでとこれからの動きを紹介します。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/ダイムラー・トラック・アジア、「フルロード」編集部

前回までの一部おさらい

DICVの市販第1号車・「バーラトベンツ2523R」ベースのコンテナ運搬車。すでに引退したクルマで、キャブはレストアしているが、シャシーと荷台はかなり使い込まれていた
DICVの市販第1号車・「バーラトベンツ2523R」ベースのコンテナ運搬車。すでに引退したクルマで、キャブはレストアしているが、シャシーと荷台はかなり使い込まれていた

 バーラトベンツ車を生産しているのは「ダイムラー・インディア・コマーシャル・ビークルズ(DICV)」という会社です。ダイムラートラックのグループ組織では、我が国の三菱ふそうトラック・バスと同じく、アジア・太平洋事業統括会社ダイムラー・トラック・アジア(DTA)の子会社になります。

 生産拠点のオラガダム工場は、南インド・チェンナイ郊外の工業団地にあって、4000人以上の従業員が勤務し、操業開始から10年で累計19万台以上のトラック・バスを生産しました。工場は、ドイツや日本と同等の最新設備を整えるだけではなく、高い生産品質を実現していることも特徴です。

トラックの安全性向上へ・電動化はしばらく先

チェンナイ中心部の通称ネルースタジアムで開催されたバーラトベンツ市販10周年イベント。司会やパフォーマンスはインドのトップタレント・アーティストたちによるもの。たいへんな盛り上がりだった
チェンナイ中心部の通称ネルースタジアムで開催されたバーラトベンツ市販10周年イベント。司会やパフォーマンスはインドのトップタレント・アーティストたちによるもの。たいへんな盛り上がりだった

 チェンナイ中心部の巨大な屋内スタジアムで、バーラトベンツ市販10周年を記念した祝賀イベントがDICV主催で開かれ、DICVの従業員や販売会社、ユーザー(運送会社やドライバー)、サプライヤなど6000人もの関係者が招待されました。

 ドイツから駆けつけたダイムラートラック・グループ(DTG)のマーティン・ダウム代表は、「インドは(同国商務長官の発言を引用して)2047年に世界第2位の経済大国になるといわれており、その際にはトラック市場が4倍に拡大すると予想されます。バーラトベンツは、インドでもこれから重要となっていく持続可能な輸送の提供においても、リードしていくでしょう」とスピーチし、燃費をはじめとする性能・品質での成功を強調しました。

 祝賀イベントと併せて、ダウムDTG代表、DTAのカール・デッペン社長・CEO、DICVのサティヤカーム・アーリャ社長・CEOの3社首脳が揃っての会見も開かれました。

記者会見にのぞむダイムラートラックのダウム代表(中央右)、DTAのデッペン社長・CEO(右端)、DICVのアーリャ社長・CEO(中央左)
記者会見にのぞむダイムラートラックのダウム代表(中央右)、DTAのデッペン社長・CEO(右端)、DICVのアーリャ社長・CEO(中央左)

 会見で、これまでの10年についての質問に対し、デッペンDTA社長・CEOは「ダイムラーの技術をインドで生産するため、現地サプライヤと強い結びつきを構築しました。そしてダイムラー製品の輸出ハブとする目標は達成されました」と話しました。

 また、アーリャDICV社長・CEOは「これまでにインドで販売拠点を300以上整えました。バーラトベンツは市場で最良のベンチマークとして新しい価値を提供し、市場を変革しています」と述べました。ちなみにDICVでは、2025年までに、トラック製品の燃費を8%改善するという目標を立てています。
 
 電動化についての質問に対し、ダウムDTG代表は「電動化はゼロエミッションモビリティに不可欠で、ドイツで積極的に推進しているところです。しかし、電力を供給するための基盤エネルギーは安定していなければなりません」と述べ、ウクライナ戦争で顕著となった石油・天然ガスの高騰、太陽光・風力など自然エネルギーの不安定さを指摘しました。
 
 アーリャDICV社長・CEOは「(電力供給が不安定な)インドでは、電力インフラが整ってから電動化に投資したい。また、価格面でもEVトラックの市場性は不透明です」と述べ、当面はEVの本格的導入を行なわないとしています。

 電動化以外で今後、どのような点に力を入れていくかについての問いに対して、ダウムDTG代表は「成熟市場ではすでに安全性を追求した製品が投入されています。インドで現在使われているトラックにはまだ課題があります。ダイムラーは安全で革新的な大型トラックを発表していきたい」とし、安全性に力を入れていく考えを示しました。

 インドは、車線・車間などお構いなしの運転作法が当たり前で、最新モデルの乗用車でも「自動ブレーキが作動したらむしろ危険」として、衝突被害軽減ブレーキ(AEBS)を無効化しているともいわれています。この先進ドライバー支援システムを導入しにくいお国柄で、ダイムラーがどのような安全性を提案していくのか、興味深いところです。

記念式典のようす
記念式典のようす
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