電動化してもムリ!? トラックと乗用車はなぜ「モジュール化」できないのか? VWグループが解説

商用車にモジュール化を導入したスカニア

 VWの商用車部門であるトレイントン・グループは、MAN、スカニア、ナヴィスター、VWトラック&バスという4つのグローバルブランドを傘下に持っている。1960年代、トラック業界に初めてモジュール化というコンセプトを導入したのはスカニア(当時のスカニア・ヴァビス)とされる。

 その背景には新技術とグローバル化に伴って部品の組み合わせによる複雑性が増大し、重大な品質問題が生じたことがある。スカニアは顧客のニーズを分類し、同じニーズに対しては同じコンポーネントを再利用するというモジュール化を導入することで品質問題を解決した。

 スカニアのモジュール化の哲学はトレイトン・グループに受け継がれ、トレイトン・モジュラー・システム(TMS)により顧客の求める要件を適切なクラスターに分類し、正しいソリューションに「翻訳」する、洗練された方法になっているという。

 TMSによるマルチブランドでのモジュール化成功例の一つが、グループ各社でベースとなるエンジンを共有する「コモン・ベース・エンジン」プロジェクトだといい、トレイトンでは研究開発リソースの80%をグループとしてのイノベーションに、20%をブランド固有のソリューションに割り当てているそうだ。

乗用車とは全く異なるコスト意識

電動化してもムリ!? トラックと乗用車はなぜ「モジュール化」できないのか? VWグループが解説
生産台数、(EVの)バッテリー配置、コストの考え方、汎用性など乗用車と商用車の違いは大きく、共通項は驚くほど少ない

 乗用車を設計する際、メーカーは平均して12~15のペルソナ(想定される顧客)を設定し、その好みに合わせて開発を行なう。いっぽう商用車は産業界の要求に合わせて設計される。

 見た目と快適性、運転性能と燃費などは商用車でも重要だが(特にトラックドライバーにとっては)、運送会社は耐久性と稼働率を重視する。さらにテレマティクス、自動運転やドライバー補助、フリート管理システム、用途に合ったコネクテッド機能など高度な技術は、「好み」ではなく「収益性」のために車両にシームレスに統合される。

 乗用車も商用車も、コストを考慮することは極めて重要だ。ただ、コストという側面において商用車は乗用車よりはるかにシビアだ。ユーザーは車両を使って利益を生み出さなければならないため、総保有コスト(TCO)と運用経済性(TOE)を慎重に検討する。

 競争力のある価格と燃費・整備費・ダウンタイム・アフターセールスなど、車両の収益性を高めるためのサポートも不可欠だ。また、中古市場での売却やボディの「載せ替え」もコストに影響する。

 商用車のモジュール化は、完全な再設計ではなく、段階的なアップグレードを促進することで、こうした要求に応えている。

 エンジン、トランスミッション、アクスルなどモジュール化されたコンポーネントは、標準化されたインターフェースにより交換・アップグレードが容易で、車両の寿命を延ばすことが可能だ。大型トラックでは車両のモデルチェンジに際して、キャブは変わったがエンジンはキャリーオーバー(あるいはその逆)ということも珍しくない。

 このアプローチはフリート(保有車両全体)の効率と信頼性向上にも欠かすことができない。電動化や排ガス規制に対してもメーカーはモジュール化で対応している。

電動化が進んでも乗用車・商用車のモジュール化は難しい!?

電動化してもムリ!? トラックと乗用車はなぜ「モジュール化」できないのか? VWグループが解説
スウェーデンで製造されるスカニア車のキャブ。開発に莫大なコストがかかる大型車のキャブは、モジュール化によるメリットが大きいコンポーネントだ

 自動車の電動化により部品点数が減り、乗用車・商用車でのモジュール化が進むというという期待もあるが、トレイトンはこれには否定的だ。

 バッテリーEV(BEV)乗用車ではスペース効率の最適化と、重量配分、運転中のダイナミクスのためにバッテリーの配置を決定する。メーカーは車両の重心位置を下げ操縦安定性を高め、車内のスペースを最大化するために戦略的にバッテリー搭載位置を決定している。

 そして、「バッテリーパック」をモジュール化し異なる航続距離や出力に対応する。BEV商用車でもそれは同じだが、優先順位が異なり、商用車で重要なのはスケーラビリティ(拡張性)だ。

 大型車はアクスル構成が多様で、乗用車のような2軸車から、後2軸のタンデム駆動、前2軸の3軸車、低床4軸車など、一般的な車型だけでも車輪の数や配置が異なっている。こうした様々なアクスル構成に対応し、メンテナンスと交換を簡単にするため拡張性が重要になる。

 また、貨物スペースを最大化することが重要で、車両の安定性に関しても空車からフル積載時・トレーラ連結時を考えて重量を配分する必要がある。クレーン車やゴミ収集車など特装系の機械を搭載するケースに備えて、シャシーの架装性を確保することも重要だ。

 商用車でバッテリーを搭載できるのは、シャシーサイド、フレームの内側、天井(バス)などで、あまり自由度がない。

 本質的にモジュール化は、多様化するニーズに合わせた変革的なアプローチだ。電動化など乗用車と商用車に共通する要素技術もあるが、これまでに見てきた通り市場の需要と顧客のニーズはそれぞれに独自のもので、ニーズに合わせて再利用可能なコンポーネントを設計するというモジュール化の原点を考えれば、両者の「共通モジュール化」は今後も進まないだろう。

 ただし、商用車と乗用車でのモジュール化はあきらめたというVWだが、商用車部門をトレイトン・グループにまとめ、傘下の全メーカー・全ブランド・全製品にわたってコンポーネントの再利用を可能にすることで、商用車専門のグループとして規模の経済を実現しようとしている。

 輸送業界の変革が求められる時代にあって、商用車が将来の課題に効果的に対応し、効率性と適応性、持続可能性を向上するために、トラックのモジュール化がますます重要な要素となりそうだ。

【画像ギャラリー】「モジュール化」するには想像以上に大きい!? 乗用車と商用車の違い(4枚)画像ギャラリー

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