ウイングやバンボディでは、トラックメーカーと大手架装メーカーがタッグを組む「メーカー完成車」が隆盛を極めているが、これらレディメードの架装に対して、オーダーメードの「つくりボディ」を手掛ける架装メーカーがある。
その大半は中小の架装メーカーになるが、オリジナルでユニークな製品を生み出す架装メーカーも多く、業界の活性化に一役買っている。
今回ご紹介する柳沼ボデー工場もそんな「元気印」の一社だ。柳沼ボデーが手掛ける家畜運搬車は、メーカーも少なく、つくり込みが厄介な車両だが、そこに新風を吹き込もうと活動を始めた。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/フルロード編集部・柳沼ボデー・SMECサービス
業務用車両の修理に長年の実績 柳沼ボデー工場の人となり
栃木県宇都宮市台新田町で迎えてくれたのは、同社の三代目となる柳沼文秀代表取締役である。創業は1937年で、祖父の柳沼政雄氏が戦中から業務用車両の修理に特化したサービスを展開し、現在に至っている。
実は、柳沼ボデーが今回の主題である家畜運搬車を手掛けたのは、何と今からわずか3年前のこと。売り上げでいえば今でも大型・特殊車両の事故修理が9割を占めており、架装メーカーとしての売り上げは1割にも満たないのだ。では、なぜ架装メーカーに軸足を置こうとしているのか?
「私どもの仕事は業務用車両の事故車の修理がメインになるですが、こればかりはいつ入庫してくるか先が読めない『待ち』の仕事なんですね。微減というのかな、少しずつ事故車の修理の仕事も減ってきていますし、そろそろ次の事業展開も考えなければならない。
そんなとき懇意にしている畜産関係のお客さんから『家畜運搬車が欲しいのだけど、他のメーカーさんに頼もうとしたら3~4年かかると言われてしまった。そんなに待てないので、柳沼ボデーで何とかつくってくれないか?』という話がありました。
初めてのことだし、材料代をはじめコストがどれだけかかるかわからないので、最初は断っていたのですが、非常に熱心だし、お世話になっているお客さんなので、ではやってみようかと……。牛を運ぶ中型車でしたが、初めてのことなので完成するまで1年かかりました。それが2021年のことでした。
初めてのことなので、このクルマの床フロアは他の架装メーカーさんから購入しました。しかし、他社さんにお願いすると納期が読めないし、完全オリジナルなものができない。1号車は床や根太などは木製でしたが、2台目以降は全部自社で製造しよう、耐久性を考えて基本的にステンレスとアルミでつくろうと考えました」。
手探りの独学で家畜運搬車を製造
もちろん、図面があるわけでもなし、同業者に教えを乞うわけにもいかないので、いわば独学で家畜運搬車を仕立てることになるのだが、聞けば柳沼社長は、もともと根っからのメカ好きなんだとか。機械工学系の大学を卒業後、地元のいすゞディーラーに就職し、メカニックとして働くなど、機械ものに強く、2011年に37歳で柳沼ボデーを継いでからは、3D-CADを独学でマスターし、自ら車両の設計を行なっているという。
「当初はまったくの手探りでした。たとえば、リアは牛を荷台の乗せるためのワイヤー式のゲートになっているのですが、どのくらいの角度のスロープなら牛がうまく上ってくれるのか、わからないでしょう。そこで畜産市場に行ってお客さんのクルマの角度を測らせてもらったり、いろいろ話を聞いたりして、ひとつずつ詰めていきました。
また、運ぶのが家畜なので糞尿対策が大事です。当初はクッション性がよいというイメージもあって木製の床フロアにしたのですが、頻繁に清掃・消毒するクルマなので長く使うと腐食してしまう。そこで縦根太・横根太をアルミにし、床はステンレスの縞板にしました。通常この床におがくずを敷いて運びます。
屋根は、軽量化につながる幌が一般的ですが、私どもでは冷凍車など使用する断熱パネルにしています。これは暑さ寒さから牛を守るということ、さらに雹などで屋根に穴が空かないことなどを想定しています。ステンレスには塗装を行ないません。防疫や経年劣化で塗装がはがれることがあり、牛や豚が口にすることを防ぎたい。また、磨きステンレスにより掃除が安易と考えているからです。
もちろん、磨きステンレス材をはじめ縞板など、使用する部材は値段が高いし、加工もひと手間かかりますが、家畜運搬車は5年10年で代替えするものではないでしょう。
それこそ車歴まで……ボディはそれ以上ずっと使えたほうがお客さんのメリットになると思います。商売を考えたら、5年10年で買い替えてくれたほうがありがたいのですが……(笑)」。
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