元ベテラン運転手 トラさんの「泣いてたまるか」 No.28
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寄稿・連載
トラックドライバーの誇り その26
前回は、駐車中の仮眠から覚める時の錯覚を書いた。もちろん、このような錯覚は覚醒している時にもあるわけで、本を読んだり携帯メールなどで夢中になっている時に、隣のトラックが動くと自然にブレーキに足が行き、強く踏んでしまう。あれ! 止まらないと思い、慌てて踏み直すが、それでも止まらない。ふと気がつくと……。自分のトラックが動いているのではないかという錯覚のなせる業である。
だが、ここで問題にしたいのは、錯覚にしても幻覚にしても、出眠時または入眠時に見られる錯覚や幻覚のことだ。
誰でもそうだが、寝ようとしてすぐにいびきをかける人がいるだろうか? これは絶対にあり得ない。その時間の長短はあるにせよ、次第に眠気が差し、緩やかな状態で睡眠に入る。つまり、覚醒から次第に半眠状態になり、ある一定の所から睡眠状態になる。
疲労こんぱい状態や極度の睡眠不足の時は、この半眠状態が短くなる。眠いのを我慢して我慢して走っていると突如として訪れることが少なくない。しかし、長年ドライバーをやってその状況に慣れていると、不思議なことにそれに対応できるようにもなるので、人間の身体というか脳は面白くできていると思ってしまう。
だが、それでもスーパーマンになれるわけではない。前を走っているトラックの後ろの文字や積み荷が怪物や違うものに見えて来たときは、もう限度を超えて我慢している。そう、入眠時の錯覚に陥っているからだ。私自身そのような経験は何度もある。
ある時、中国道だったと思うが、上っている時に側道のような道路の一段高いところに信号がある。吹田JCの少し手前だった気がするが、正確な位置は覚えていない。そこで、私は急ブレーキ気味にブレーキを踏んだことがある。赤信号だったからだ。もちろん、高速を走っているので、信号は関係ない。眠気を我慢し、半眠状態を長く続けていたために入眠時の錯覚を起こしたものだ。思考能力や判断能力の欠如が生じて、このような錯覚を起こしてしまう。ただ、赤信号だから止まらなきゃ! という、日頃の第一優先のことだけが頭の中を支配する。
その時の私は、かなり進んだ半睡状態で、朦朧運転といえる状態だった。もしその時、同じような状態のドライバーが後ろにつけていたら……。完全なノーブレーキによる追突を引き起こしたかもしれない。もうすでに説明したように、力積(押す力)により、死亡事故になったかもしれないのである。
この半睡状態の運転は、程度の差こそあれ、ほとんどのドライバーが経験しているのではないだろうか? ドライバーの方で頷く人は多いと思う。覚醒時が100%の覚醒だとするならば、その半分の50%では朦朧にはならないだろう。だが、それを超えてしまうと危険が増す。
もう随分前の調査だが、深夜トラックの運転手の70%が意識朦朧として運転しているという調査があった。当たらずとも遠からずと思いながらその記事を読んでいた覚えがある。
次回は、錯覚が少し進んだ幻覚を考えたい。
トラさんのブログ「長距離運転手の叫びと嘆き」
http://www.geocities.jp/boketora_1119/
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