追想記(ニニ・ロッソの調べに誘われて 其の一)
象潟を過ぎると……。と、書いて、何となく違和感が残ってしまう。現在、象潟は「にかほ市」に編入されているようで、地図を見ると象潟に市庁舎が置かれている。
私の感情として、象潟ばかりが頭の中にドンと宿っていて、旧仁賀保町は頭の片隅にもなかった。多分、平成の合併で「にかほ市」になったと思われるが、何故象潟市ではないのか? と、思ってしまったのは、あくまでも私の個人的な感情に過ぎない。もちろんそれは、かつててあった象潟の美しい自然と、芭蕉が詠んだ句の影響が大きく、その陰で仁賀保と言う町が私の頭の科には露ほどもなかったのである。
私は、現在の仁賀保と象潟の力関係……、つまり、人口や町としての財政状況、また、経済活動なども知らないのだから、私の感情などは、全く時代錯誤が甚だしい。想像するに、合併当時は仁賀保町の方が力関係は上だったのだろう。
象潟と仁賀保は隣接しているだけでなく、その境目すら国道を走っている限り、標識を見落とすと気が付かないほだった。それが、「象潟を過ぎると」と言う表現が、自分の中で違和感となってしまったようだ。
その、旧仁賀保町という名前をわずかばかり印象付ける場所があった。それは、とある土産物を売っている店で、駐車場は大きく、秋田方面に向かっていた私が右折して入るのに苦も無く入れた。だが、一度としてトラックが停まっているのを見たことがない。この店の集客は、観光客が目当てだったのだろう。
もしこの店で食事が出来れば、駐車場の広さから、トラックが多く停まっていただろうと思われる。
この店の名前には「仁賀保」という文字が使われていたのだが、正確には覚えていない。初めてその店の駐車場にトラックを乗り入れてエンジンを止めた時、聴き覚えのあるBGMが流れてきた。それは、かつて私が持っていたLP版の「ニニ・ロッソ」と同じものだと、その曲調からすぐに判った。そして、その時、フッとぬるま湯に浸かった感覚に陥り、張りつめた運転の緊張感が抜けていった。
当時、私が乗っていたトラックは中古のオンボロで、カーステレオなんて着いてなかった。LPと同じテープを持っていたのだが、宝の持ち腐れだった。それが、全く予期しない所で「ニニ・ロッソ」を聴けた。もう、何十回、いや、それ以上聞きなれた曲なのに、懐かしさと、耳に心地よい曲に貪欲になってしまった。曲によっては耳を澄ませ、ある曲では口ずさみ、また、ニニ・ロッソが歌う曲では共に歌いながら、しばらく、トラックから降りるを忘れていた。
あっという間に一巡目が終ってから、自分が置かれている状況を思い浮かべた。(このまま留めていたら、無断駐車になってしまう)。それが頭に浮かんできて、食事が出来ないか、また、どんなものを売っているのか、それを知るためにトラックを降りた。
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