三菱ふそうが開発中の大型ハイブリッドトラックをめぐって その4

三菱ふそうが開発中の大型ハイブリッドトラックをめぐって その4

その延長線上にあるハイブリッドトラクタ

そしてスーパーグレート エコ ハイブリッドに対する期待

燃料を大量に消費する長距離輸送用の大型トラックだけに、三菱ふそうが鋭意開発中の「ス―パグレート エコ ハイブリッド」に期待が高まる一方だが、その実用化にはまだまだ越えなければならないハードルがある。
例えば、重量やシステムの搭載スペースの問題である。テスト車両のハイブリッドシステムの重量は未発表だったが、パブコの新しい「D-WING」を架装したこの供試車両LFG-FU54VZ改は、本誌「フルロード」が以前試乗した車両の仕様とほぼ同一なので、最大積載量のタイトルを見れば、おおよその重量が分かる。

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開発中の「スーパーグレート エコ ハイブリッド」の積載タイトル。本誌が試乗した同仕様の車両の最大積載量は14000kgだった

そこで差し引きしてみたのだが、現在は500kg増といったところだろう。これには、サイドスカート等の空力デバイスも含まれているので、純然たるシステム重量というわけではないが、排ガス対策等で重くなる一方のトラックの車両重量だけに、さらに500kg増は、ユーザーにはちょっと認めてもらえないだろう。
三菱ふそう開発陣によれば、システム重量のアップを200~300kg以内に収めたいということなので、大いに期待したい。
ちなみにこの重量の問題は、バッテリーの重量によるところが大きいが、エネルギー回生の能力を上げようと思えば、重量アップの方向になるし、逆にあまり重くしすぎるとハイブリッドの効果が相殺されてしまうわけで、そのちょうどいい按配を探すことも開発のポイントだろう。もちろん、そこに外的要因として、「あまり重くなって積載タイトルが取れないようでは困る」といった営業サイドからの注文もあろうし、リチウムイオンをはじめ高価なマテリアルをふんだんに使おうとすれば、調達部門から「待った」がかかるだろう。トラックの開発というのは、単なるドリームテクノロジーではなく、コストをはじめ現実に根ざしたシビアな開発が求められているのだ。
さて、ハイブリッドシステムの搭載に関してもう一つの懸案がスペースの問題だ。トラックの下回りは、最近は新参者が多く急に建て込んできているので、ハイブリッドシステムに割ける空間も限られてきている。特に長距離輸送用大型ハイブリッドトラックとして需要の見込める冷凍車などは、床下にサブエンジンを搭載している車両が多いので、レイアウトには苦労するかもしれない。それを見越して、メインエンジン方式のハイブリッド冷凍車の開発も並行して進めて欲しいというのは欲張り過ぎか。
欲張りついでにもう一つ、長距離輸送用ということからすれば、6×2のFUのみならず8×4のFSにも是非ハイブリッドが欲しいが、低床タイプのFSでも搭載スペースの問題で頭を捻ることになるかもしれない。

ただ、搭載スペースの問題で最も悩ましいのはトラクタだろう。「エッ、トラクタもハイブリッド化するの?」と驚かれるかもしれないが、今回の大型ハイブリッドトラックの企画自体、アクトロスやアクサー、カスケディアといったダイムラー・トラックグループの他の大型トラックにも展開するという明確な狙いがなければ、成立しなかったことは明白である。それは三菱ふそう開発陣も認めるところで、そのバックボーンがあるから「スーパーグレート エコ ハイブリッド」は先兵として走り出したのだ。そして欧米のトラックが、単車ではなくトラクタが主体であることを考えれば、「ハイブリッドトラクタ」に行きつくのは当然の帰結であろう。今回「スーパーグレート エコ ハイブリッド」と同時に公開された喜連川研究所のGVW40トン車のパワーにも耐えうる試験ベンチは、それに対応したもので、もちろんGVW(車両総重量)というよりGCW(連結車両総重量)という方が正解だ。

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単車に比べてホイールベースが極端に短いトラクタに、どうやってハイブリッドシステムを搭載するか、これはけだし見物だと思うが、一番スペースを取るバッテリーをキャブバックに置くとか、あるいは分載して配置するなどの手法が考えられると思う。いずれにせよ、「スーパーグレート エコ ハイブリッド」の延長線上に「ハイブリッドトラクタ」があることは確実で、その開発まで三菱ふそうの手に委ねられるかどうかは分からないが、トラクタは燃料食いであるから、今後さらに軽油の値段が上がることがあれば、世界の大型トラックが(つまりはトラクタが)、一挙にハイブリッド化する可能性だって無いとは言えないだろう。そのムーブメントの先頭を走る「スーパーグレート エコ ハイブリッド」の存在がいかに重要か、ご理解いただけると思う。
現在、東名高速の東京―小牧間で実車試験を行なっている「スーパーグレート エコ ハイブリッド」は、同仕様の「スーパーグレート ノン ハイブリッド」に比べてコンスタントに燃費の10%以上の向上を示しているという。これは、集配用途などに用いられる「キャンター エコ ハイブリッド」の約20%向上の値よりは低いが、大型トラックは走行距離が非常に長いため、例えば年間のCO2削減効果は小型トラックの5倍以上と目され、それは取りも直さず、燃料費の節減効果もそれだけ大きいことを意味している。ちなみに三菱ふそう開発陣は、ハイブリッドシステムの更なる最適化に加え、サイドスカート等による空力性能のアップなどの「合わせ技」により、15%以上の燃費向上を目指すとしている。

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最後に一番肝心な車両価格のアップについてだが、もちろん今の段階で具体的な金額は出てはこないが、三菱ふそう開発陣では3~5年で償還できるような価格設定にしたいという。でも5年はちょっと長すぎる、是非3年で元が取れ、あとは乗れば乗るほど燃料代が浮くような、エコロジーだけど非常にエコノミーな「スーパーグレート エコ ハイブリッド」を目指して欲しいと思う。
高く重くなるばかりで、一向にユーザーにメリットが還元されない大型トラックは、もう要らない。目に見えてメリットの分かる大型トラックが欲しい。「スーパーグレート エコ ハイブリッド」に対するトラックユーザーの期待は、極めて大きいものがある。 〈おわり〉 (キャップ)

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