中国・内モンゴルの炭鉱で無人の電動ダンプ100台が稼働中だ。冬には気温がマイナス48度まで下がる人間には厳しすぎる環境で、先進ネットワークで繋がれたトラックをAIが運転している。
脱炭素が進むいっぽう、石炭は依然として重要なエネルギー源になっており、中国は炭鉱の「スマート化」を通じてAI・通信技術を実証するとともに、安全性、持続可能性、生産性の向上などを同時に実現しようとしている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Huawei・XCMG
中国・内モンゴルに無人ダンプ100台
鉱山業界は既に新しい時代に入っているのかもしれない。
中国国営のエネルギー企業・華能集団(Huaneng)と、トラック・建機メーカーの徐州工程機械(XCMG)、通信機器の華為(Huawei)は、世界初だというバッテリー交換式・純電動・無人運転のダンプトラック100台を2025年6月より内モンゴルの伊敏(イーミン)炭鉱で運用している。
無人・電動ダンプの「華能叡馳」にはドライバーが搭乗するためのキャブがなく、高度なAIによる自動運転と先進5Gネットワークによる遠隔監視が前提となっている。
鉱山開発は危険と隣り合わせの仕事だが、伊敏炭鉱の環境はことさら厳しく、冬の気温はマイナス48.5度まで下がる。嵐、霧、泥など車両にとって最悪の環境は、もちろん人間にとっても深刻な危険をもたらしてきた。無人化は、効率化と持続可能性に加えて、危険な現場から人間を遠ざける意味もある。
導入された車両はAI認識システムを搭載しており、完全な暗闇や砂嵐の中でも40メートルの視界を確保する。レーダーとカメラが全周360度の視界を提供しており、これに基づいてAIがトラックを運転している。
軟弱な地盤で車両がスタックするのを防ぐため沈下防止装置を備えるほか、AIはこうした路面状況のデータを収集する役割も担っており、修繕が必要な場合はメンテナンスクルーにアラートを発することもできるそうだ。
車両には568kWh容量のリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリーが搭載される。無人トラックなので、本来は運転席がある位置にバッテリーを搭載可能な広大なスペースがある。このバッテリーは極端な低温環境に対応したほか、バッテリー交換も可能だ。
バッテリー交換は自動化されており、数分間のバッテリー交換が終われば速やかに仕事に戻る。これにより充電による稼働停止を回避し、無人トラックは文字通り24時間働き続ける。生産性は既に人間のドライバーを超えている。
電動ダンプで石炭を運ぶという「矛盾」
中国が車両の電動化で世界をリードしているのは周知の事実で、発電量における再生可能エネルギーの比率も増えているが、依然として石炭が重要なエネルギー源になっている。2024年は世界の石炭産出量の半分を中国が占めている。
脱炭素のための電動トラックで、主要な排出源となっている石炭を運ぶのは矛盾しているようだが、中国が石炭の消費量を大幅に削減するにはまだ何年もかかる。その間に「スマート鉱業」を確立し、鉱山開発をよりクリーンで持続可能なものにするという狙いがある。
無人ダンプの運行に内モンゴルが選ばれたのは偶然ではない。この地域は中国で最大規模の石炭の生産地であり、採掘量の4分の1を占める。内モンゴルは炭鉱におけるイノベーションの巨大な実験場だ。稼働中の鉱山の70%がなんらかの新技術を導入しており、200以上の「スマート炭鉱」が存在するという。
伊敏炭鉱は同国で2番目に大きい露天掘り炭鉱で、厳しい気象条件も新技術の実証にはむしろ歓迎されている。
稼働を支えている5G先進ネットワークは華為とチャイナモバイルが開発しており、無人トラックにとっては不可欠な技術だ。広大で起伏の多い鉱山地帯全体をカバーし、100台を超える車両の接続が途切れないよう高い信頼性を維持する必要があった。20ミリ秒のレイテンシで500Mbps(上り)のリンク速度を実現し、リアルタイムでの8K動画伝送、車両の遠隔制御、24時間体制でのフリート連携などが可能になったという。
100台という規模での展開には継続的な努力が必要だった。改造ディーゼル車による初期試験を開始したのは2020年で、2022年に鉱山全体を5Gネットワークでカバーしたことで中国初の自動運転による露天掘りオペレーションへと進展した。
そこで得られた結果は「無人ダンプの生産性は、人間の運転手の87%」というものだった。継続的な改良により性能が向上し、無人ダンプの生産性は2024年までに同120%まで向上した。その後、9台の純電動トラックを導入し運搬実績を積み重ねた上で100台という規模まで拡大した。
こうした成果は、ただ技術力を証明するためのものではなく、持続可能な鉱山開発が可能であることを実証する新たなモデルになる。ディーゼル車の排ガス削減、危険な現場からの人間の排除、AIと5Gによる最適化など、伊敏炭鉱での「無人ダンプ」プロジェクトは様々な課題を同時に解決することを目指している。
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