ボルボの最新の大型トラック「FHエアロ」シリーズは、名前の通り「FH」シリーズの空力性能(エアロダイナミクス)を高めたモデルだ。そして、航空宇宙(エアロスペース)産業で実証された技術を初めて本格適用したトラックでもある。
長距離トラックの空力改善は燃料消費とCO2排出量の削減に大きく貢献する。小さな変更が大きな効果を生んだキャブ改良について、ボルボ・トラックスが解説している。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/AB Volvo
航空業界にインスパイアされた空力性能
ボルボ・FHエアロシリーズは最近「グリーントラック2025」を受賞した。最も効率的な長距離トラックに送られる同賞の受賞理由として、高効率エンジンと共にあげられたのが、その車名が示す通りの空力性能だった。
エアロキャブが燃費向上に効果があることは広く知られているが、ボルボが空気抵抗低減のために最新技術をトラックに本格導入するのは、実はこれが初めてだ。
具体的にはキャブ・エアフロー・スタビライザーの導入、エアデフレクターの延長、シャシーフェアリングの改良などを行なった。これらはあまり目立たない控え目な変更だが、空力性能に大きな違いをもたらした。
既に達成されている最高効率に対して、航続距離・燃費・CO2排出量を追加で2%改善するものであり、従来型のボルボFHと比較すると、FHエアロは全体で7%もの燃費向上を果たしている。
なお、新しい機能の一部はFHエアロだけでなくFHやFMなどのモデルでも利用可能だ(スタビライザーはFHエアロ/FHのみ)。また、ディーゼル車と天然ガストラック、バッテリーEVなど、ボルボがラインナップする全てのパワートレーンに適用可能なことも、空力向上が広範囲にメリットをもたらす理由と言えるだろう。
同社でプロダクト・マネージメントを担当するヤン・ヘルムグレン氏は次のようにコメントしている。
「シミュレーションと風洞実験に費やした多くの時間は、最終的に報われました。トラックキャブに対するこうした変更が、空力性能を大幅に向上させました。これはお客様に大きな利益をもたらします」。
1+1=3?
中でも最も重要な変更が、キャブ上部のコーナー(ウィンドシールド横)に新たに導入されたキャブ・エアフロー・スタビライザーだ。
一見すればただの装飾パーツのようにも見えるが、緻密に計算された小さなベーンが斜めに取り付けられており、エアフローが乱れやすいキャブコーナーの空気をそのパターンにより制御しているという。
同社でエアロダイナミクスを担当する上級テクノロジー・エキスパートのアンダース・テンスタム氏は次のように話している。
「既成概念から脱却し、航空機やF1レースマシン、風力発電タービンなどに用いられる最新技術をトラックに適用しました。
トラックのキャブ上部のコーナーは空気力学的には非常に重要な部分です。従来のミラーの代わりにカメラモニターシステムを採用したことで、この部分に新しい可能性を追求する余地が生まれました。小さなベーンがミクロスケールで空気を整流し、このエアフローがマクロスケールでの効果を生み出しています。
ここで得られた知見を通じて、将来的にはさらに多くの空力コンセプトを導入することも可能になるでしょう」。
スタビライザーによる空気の整流は、フロントの空気抵抗低減だけに効果があるわけではなく、既存の空力パーツのアップグレードに関しても空力特性を向上させている。
一つはキャブとトレーラのギャップを埋めるエアデフレクタで、約50mm延長された。もう一つはシャシーフェアリングでリアフェンダーとのアライメントを改善した。
こうした改善点はいずれも「1+1=3」という原則に従ってお互いに補完し合っているという。これは、個別のコンポーネントにおける改善点がお互いにプラスの効果を与えることで、全体としての効果が単純な合計より大きくなることを表しているそうで、エアフロー・スタビライザーがその要というわけだ。
ボルボの新大型トラック「FHエアロ」は、現代のトラックが燃費向上を目指す際に、空力性能がいかに重要であるかを体現している。トラックキャブの24cmの延伸と(欧州の新基準によるもの)、空気抵抗低減のための新技術の導入により、長距離輸送用のトラックは大幅な燃費向上を果たした。長距離トラックの走行距離を考えれば、これによるCO2排出の削減量もまた絶大となる。
【画像ギャラリー】 航空宇宙産業の技術? ボルボFHエアロの空力パーツ(5枚)画像ギャラリー
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