今年は、世界最大の商用車の祭典「第64回IAA国際商用車ショー」が9月にドイツ・ハノーバーで開催されるんですが、それにともなって各メーカーの動きも活発化しています。以下は、トランスミッションなどで知られるドイツのゼット・エフ社のニュースリリースの要約ですが、「TraXon」と命名された重量級大型商用車用自動変速トランスミッション、かなり興味深い内容ですね。
世界的な技術革新 モジュール構成の大型商用車用トランスミッション「TraXon」
ゼット・エフ社は、新たに開発した重量級商用車向けの自動変速トランスミッション・システムを2012 年IAA 国際商用車ショー(ハノーバーショー)に出展する。全てが新しい基本変速機構を含めてモジュール化コンセプトによって構築されたこのトランスミッション・システムは「TraXon」と命名され、幅広い車種を様々に使い分ける商用車マーケットの要求に対応するものとなっている。また、相反するものと考えられていた要件や性能をひとつにまとめ上げたという意味でも、革新的なトランスミッションだといえる。つまり、伝達トルクはより大きく、しかし重量増加は抑制して動力システムの出力重量比においては妥協せず、変速比の設定幅を拡大しつつ、しかし騒音についてはさらに静粛化を進め、さらに装着される車両の使われ方に応じて、スターティングデバイス(発進機能要素)は従来の乾式クラッチだけでなく、ハイブリッド・モジュールやデュアルクラッチも、そしてトルクコンバーターも組み合わせることができる……というように多くの要素が盛り込まれているのだ。それに加えて、エンジンの出力で外部機器を駆動するPTO(PowerTake-Off)機構を組み合わせることも可能である。
ゼット・エフ社はまた、この新しいトランスミッション・システムのために革新的な変速制御「PreVisionGPS」を開発した。これはGPS による位置検出機能とナビゲーションデータを組み合わせて、最適な変速段を予測して制御してゆくもので、とりわけ燃料消費の削減に効果がある。
TraXon には、トランスミッションとしての機構面と制御ソフトウェアの両面で、実に多くの革新技術が組み込まれている。これによってゼット・エフ社は大型商用車のトランスミッションに関する新たな世界基準と、幅広い機能の多様な組み合わせを実現したのである。
「TraXon によって私たちはサステイナビリティ(持続可能な社会)の実現を目指している」と、ゼット・エフ社の経営会議メンバーであり商用車技術部門の責任者であるロルフ・ルッツは語る。「今日の商用車市場に投入するための新たな製品として、経済性と顧客にとっての利益はもちろん、幅広い車種に搭載されて様々な使い方をされることに対応する能力をできるだけ拡張することを、その開発の焦点に据えたのです」とルッツは続ける。
ゼット・エフ社の新しいTraXon 商用車向け自動変速トランスミッション・システムの特徴のひとつは、モジュール構成による柔軟なバリエーション展開にある。基本トランスミッション(中央上)に5種類の駆動伝達モジュールが組み合わされている。(左から右へ) ①単板あるいは多板(2 プレート)摩擦クラッチ。②デュアルクラッチ・モジュール 。③ハイブリッド・モジュール。④エンジン駆動PTO 。⑤トルクコンバーター。
高効率なトランスミッション基本要素群
今回の革新の「核」は、いうまでもなく変速機としての基本部分にある。それは駆動断続グループ、主変速機グループ、副変速機(レンジ切替)グループによって形づくられ、きわめてコンパクトな寸法にまとめられている。
変速機としては、1本のメインシャフトに2本のカウンターシャフトを組み合わせた構成になっている(通常の変速用ギアボックスではメインシャフトと噛合するカウンターシャフトは1本)。これは新たに設計されたギアセットをできるだけ小さな空間の中に収めるためのレイアウトであり、その結果、TraXonは出力(伝達容量)重量比における新たなベンチマーク(評価基準)になった。この新しいZF トランスミッションは、3000Nm 以上に達する強大なトルクを伝達することを想定しており、車両総重量(GVW)60t におよぶ超大型トラックの市場において、多くの関心を集める存在になるはずだ。そしてTraXon は、12 または16 の変速段を持ち、変速機構から直結で出力する構成、そこにオーバードライブ(増速)機構を加えて出力する構成の両方が選べる。後者の場合、高速走行時に使う変速段ではとりわけ「長い」レシオ(エンジン回転に対して車輪の回転が速い変速比、すなわち同じ車速でエンジン回転を低くできる)になる。TraXon の全ての仕様において、基本トランスミッション部分は非常に密度の高い、つまり狭い空間に収めることが可能で、それはトラックを操るドライバーにとってバランスが良く適切な動きをもたらす。その一方でトランスミッション内部の損耗(例えばクラッチに過剰な負荷が加わることで起こる)に対する耐性も高めている。
ゼットエフ社の開発技術者たちはTraXon の開発において騒音の低減にも力を注ぎ、従来のASTronic と比べて、平均で6dB 低いノイズレベルを実現した。そのために新しい歯車の設計、トランスミッションケースの革新、そして内蔵される歯打系騒音低減ダンパーなどが導入されている。
さらにこのトランスミッションの設計コンセプトには、後退ギアを2 セット追加できるようにすることも含まれている。その結果、TraXon には後退ギアが4 段になる追加オプションが用意されている。これを組み込むと後退ギアの変速比は、より「長い」、つまり減速比が小さく、車速が伸びるものから、より「短い」、つまり減速比が大きく、駆動力が強くなるものまで、その幅を広げられる。こうした変速幅を持つことは、例えば高速道路の建設現場などで積載量が大きい状態から一気に長い距離を後退するような使い方をされるトラックにおいて有効である。
今日の自動車にとって非常に重要な「効率」という技術側面において、TraXon の基本トランスミッション部分の伝達効率は実に99.7%(直結駆動の変速段において)に達し、競合機種と比べても格段に優れたものとなっている。
複数のバリエーションを生み出すモジュール化設計
モジュールを組み合わせてトランスミッションを形づくる設計は、TraXonにおける極めて重要なアドバンテージのひとつである。基本トランスミッションに対して発進と変速のためのモジュール3 種類のうちのどれかを組み合わせることで、実用的に最も経済性が高いもの、製造メーカーと運行者の両方にとって様々な状況に最も柔軟に対応できるもの、ドライバーにとって快適な作業空間を提供するもの……などの要求をそれぞれに満たすトランスミッション・システムを構成することができる。
まず、発進・変速用デバイスとしての通常型摩擦クラッチに関しては、乾式単板に加えて、伝達トルク容量に対する要求値が特に高い場合に組み込む多板(2 枚プレート型)クラッチも用意されている。
ゼット・エフ社はまた、この発進デバイスとしてハイブリッド・モジュールを組み合わせる「Traxon ハイブリッド」を提供していくつもりだ。これは重量級商用車の分野では初めてのもので、120kW の出力を持つモーター、エンジンを駆動から切り離すクラッチを組み込んで、ハイブリッド動力としての全ての機能 、減速時回生、電動のみの走行、エンジン駆動にモータートルク上乗せ、スタート-ストップ(アイドリングストップ) を作り出すことができる。そして特別な輸送形態においては、このハイブリッド用モーターを付加的なユニット、例えば冷却機のための動力源として使うことも可能である。あるいはまた、駐車して内燃機関を停止している状態でも、このTraXon ハイブリッドならば、運転台キャブなどの中で消費される電力を供給し続けることも可能である。
「大型トラックにおけるハイブリッド動力システムの研究開発の中で、注目に値するエネルギー消費削減の可能性が見えてきた」と、ゼットエフ社の商用車技術部門・トラック&バス駆動系技術担当責任者のベルント・ストックマンは語る。「間違いなく約5%の燃料消費削減が、特に配送業務に使った場合はそれ以上の削減ができます。もともと大型トラックの燃料消費は相当に多いわけで、それを削減するものとして、ハイブリッド技術はすでにある技術資源を用い、妥当な開発期間の中で、比較的安価に提供できる『技術解』です」。
TraXon の基本トランスミッションとデュアルクラッチ・モジュールの組み合わせは「TraXon デュアル」と名付けられ、大型商用車製造メーカーの製品のある分野に新しい潮流を生み出すことになるだろう。燃料消費を減らすためには、後車軸における最終減速比を思い切り高い(「長い」)設定にして、特にトランスミッションの一番上の変速段を選んで走る状況でエンジン回転を下げることが大きな効果をもたらす。しかし、こうすると変速の頻度が増えてしまう。従来の商用車で一般的な自動変速機構では、この変速時に駆動力が途切れてしまうため、軽い上り勾配でもダウンシフトしている間に速度が落ちてしまい、それを防ぐためにあらかじめ低い(減速比の大きい)変速段にシフトしておく必要がある。これに対してデュアルクラッチ・モジュールは、負荷が加わっている状態でのダウンシフト、あるいはアップシフトの際の「駆動トルク切れ」が起こらないのだ。この、快適かつドライバーがほとんど感知することのないギアシフトもまた、燃料消費の最適化に貢献する。
TraXon の基本トランスミッションには、発進デバイスとしてのトルクコンバーターを組み合わせることもまた可能である。この「TraXon トルク」はとりわけ牽引重量の大きなトレーラー・トラクターに適している。エンジン側から大きなトルクが加わることが多い中でも発進デバイスの磨耗から解放され、スムーズで快適な走行が、低いライフサイクルコストの中で実現できるからである。
TraXon システムに用意されているオプションのひとつにエンジン駆動PTO(Power Take-Off)がある。これは車両のエンジンとトランスミッショの間にサンドイッチされたブロックに組み込まれ、商用車においては様々な使われ方をされる外部補機駆動に対応している。それは例えば、消防車両のポンプを駆動したり、クレーン車両やコンクリートポンプ車にも不可欠なものであり、きわめて高いトルクを車両の走行速度とは独立した回転で出力する。
制御ソフトウェアが生み出す多様な機能
ゼットエフ社の技術者たちは、TraXon シリーズに含まれる全てのバリエーションに使うことが可能なトランスミッション制御のための標準ソフトウェア・プラットホームを開発した。それはまず数多くのセンサーから、回転方向や変動、車両の速度などを検出し、そこから車両が発進し、あるいは走行している中で行う予測変速制御や車輪転動制御、その他にも快適性に関わる制御など、革新的なトランスミッションの機能を実現するためのものである。
GPS の位置情報を利用して走行状況に応じた予測変速制御を行なうPreVision GPS は、間違いなくこの分野の開拓者といえる革新技術である。これによってゼット・エフ社は、GPS の位置情報とデジタル地図それぞれのデータをトランスミッションの最適制御に結びつけることによって生まれる新たな可能性を商用車のメーカーに提供することになるのだ。このシステムを車両に組み込み、統合制御することで、PreVision GPS は車両が走行している道路、地面の状況を推定し、ギアシフトが必要かどうかの予測を行なうのである。例えば、少し先に上り勾配やタイトなコーナーが現れる状況でも、従来型のアクセル操作と車両速度に基づいて変速を行なうトランスミッション・コントロールユニットは、条件が合えばシフトアップしてしまい、その後すぐに低い変速段にシフトダウンすることになるが、PreVision GPS は走って行く先の状況を読み込んで変速を抑制する制御を行なうのである。
軽い下り勾配がある高速道路や郊外路では、TraXon の新しい転動制御がその機能を発揮する。こうした道路状況で駆動力が不要になった時は、ギアを抜き、エンジンから車輪までの駆動メカニズムを「転がりモード」にするのである。この時エンジンはアイドリング状態になる。こうすることで、駆動機構の中の転がり抵抗を可能な限り減らし、それに関わる燃料消費と排ガス中有害成分を低減できる。しかし地形を基準にした制御は、道路の勾配が強くなったことが検出されると直ちに、転がりモードからエンジンブレーキ・モードに切り換わり、トランスミッションとエンジンを機能させて、車輪ブレーキの負担を減らすのである。
「ゼットエフ社の新しいTraXon トランスミッションは、長距離輸送のための車両に対する最新のメガトレンドの全てを織り込んだ最適解です」。ロルフ・ルッツは、こう要約する。「幅広い車種や使用状況に適合する数多くのバリエーションによって、最大限の柔軟性と可能性を実現しました。そしてトランスミッションそのものの信頼性の高さと燃料消費の削減によって、運航コストも削減されるのです」。
この最新製品は、ハノーバー・メッセで開催される2012 年IAA 国際商用車ショーにおけるゼット・エフ社のブース(ホール17・ブースB17)のハイライトとなることだろう。
TraXon トランスミッション・システムはモジュール化設計を全面的に導入したことで、部品供給や整備のコストも低減されるだろう。
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