トラックの電動化で採られる手法
エンジンを電動モーターに置き換えれば電動化という目的は達するわけだが、フロントにエンジンを置き後輪を駆動する(FR)という一般的なトラックの仕組み上、その目的を達成するために現在多く採用されている方法が2つある。
一つは「セントラルドライブ」と呼ばれる方式で、エンジンの代わりにモーター・インバーターを搭載し、それ以外は従来車と同様にプロペラシャフトを介して駆動力を伝えるものだ。
既存のシャシを使えるのがメリットで、量産車でいうと、三菱ふそうの「eキャンター」(現行の2020年モデル「eキャンター1.1」)はこの方式を採用している。またZFの「CeTrax」シリーズなどセントラルドライブ方式の電動ユニットも市販されている。
もう一つは、モーター・インバーター、ギアボックス、アクスルなどを一体化した「電動アクスル」を使用するもの。既存のシャシから変更点は多くなるが、プロペラシャフトなどが不要となるため、シャシ設計の自由度が高くなるのがメリットだ。
メリトールが採用するのはこの方式で、バッテリー電気駆動であっても水素燃料電池であっても、カミンズにとっては重要な技術となる。今後はギアボックス、アクスル、ブレーキなどはメリトールの技術をベースとしつつ、モーター、インバーターなどは共同で設計することになると思われる。
電動化の手法として、ほかにインホイールモーターもあるが、出力やばね下重量の問題などがあり大型車では要件が厳しい。また、量産車ではないが日野の小型トラック「日野デュトロZ EV」では前輪を駆動する(FF)ことで電動化と低床レイアウトを成立させている。
各社の電動パワートレーン
自動車業界の産業構造が、垂直統合から水平分業へ移行するなかで、電動パワートレーン開発は競争が激しくなっている。
1月にはドイツのZFが、買収したワブコ(トラック・トレーラ用のブレーキやサスペンションのメーカー)に由来する部門を統合し、「商用車ソリューションズ事業部」を発足した。
ZFは世界最大の商用車部品のサプライヤーで、電動セントラルドライブ、電動アクスルの両方を販売する。
他に、アメリカの商用車向けトランスミッションのメーカー、アリソン・トランスミッションは「eGen Power」シリーズの電動アクスルを開発している。同じくアメリカでアクスルやトランスミッションを製造するデーナも「zero-8」シリーズなど大型車用の電動アクスルを販売する。
トラックメーカーでは、ダイムラーが量産化した「eアクトロス」は内製の電動アクスルを搭載しており、「eパワートレーン」プラットフォームとしてグローバルに展開する。
いっぽうで、パワートレーンに内製コンポーネントを使うことが多かった日本のトラックメーカーは、海外向けの製品などで、電動化に伴い外部から調達するケースも出てきている。
電動化による水平分業の進展
例えばいすゞは1月20日、カミンズとの包括的パートナーシップ契約に基づき、北米市場向けの中型トラック「FTR」シリーズ(日本の「フォワード」クラス)に、カミンズの「PowerDrive6000」を搭載した電動車のモニター運行を開始すると発表している。
モニター終了後、同システムを搭載したトラックの事業化を検討する。なお「PowerDrive」はもともとプラグインハイブリッド用のシステムとして発表されたもので、純電動で使用するのはFTRが初となる(予定)。
また、米国日野とアリソン・トランスミッションはバッテリー電気式(BEV)大型トラックの電動アクスル開発で包括的かつ戦略的な業務提携を行なうことを2021年9月に発表している。
米国日野はゼロエミッションに向けた「プロジェクトZ」を2020年に開始しているが、ショーモデルに搭載したのはアリソンのデュアルモーター式電動アクスル「eGen Power 100D」であった。その後両社の提携に伴い、シングルモーターの「eGen Power 100S」を共同で開発している。
商用車も脱炭素に向けた変革が求められる中、昨今は資本関係を基本とした垂直統合より、水平分業が進んでいる。日野自動車がトヨタグループの垣根を越えてフォルクスワーゲングループのトレイトンと提携したのはその象徴ともいえる。
いっぽうで買収・合併を通じて部品メーカーの影響力も増しているので、電動化を契機に水平分業化という動きはさらに加速しそうだ。
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