スカニアのバッテリーEVトラックにガソリン発電機を搭載したレンジエクステンダーEV(EREV)の、DHLによるの実証運行が100日を超えた。約2万2000kmを走行した知見として、EVより柔軟で安定した運行を確保しつつ、CO2排出量はディーゼル車より90%少なくなることがわかったという。
DHLはEREVを実用的なソリューションとしているが、過渡的な技術に対する規制の枠組みが不足しており、普及に向けては実際のトラック排出量の認証制度など新たな枠組みも必要になりそうだ。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Deutsche Post AG
EREVが実証運行100日でCO2排出を90%削減
DHLグループは2025年5月22日、ライプツィヒ(ドイツ)で開催されたOECD国際交通フォーラムにおいて、スカニアと共同開発し実証運行中の「エクステンデッド・レンジ・EV」(EREV)大型トラックを一般公開した。
EREVはバッテリーEV(BEV)トラックに内燃機関による発電機を搭載した、いわゆる「レンジエクステンダーEV」に相当する。スカニア製BEVトラックのバッテリー残量が少なくなると発電機が作動しバッテリーを充電するという比較的シンプルな仕組みで、発電機が直接駆動力を伝えることはできないため「ハイブリッド車」とは異なるコンセプトとなる。
DHLはこのコンセプトをベルリン・ハンブルク間の輸送で広範囲に試験しており、運行開始から100日を超え、その成果は非常に良好だという。2万2000kmを超えた走行距離のうち90%以上は電気のみで走り、レンジエクステンダー(発電機)が作動したのは約8.1%だった。
その結果、従来のディーゼル車と比較してCO2排出量は90%以上少なくなっている。充電インフラが利用できない場合も運行できるため、純電動トラックより柔軟な運行が可能だ。
DHLはこうした技術は物流分野の脱炭素化を橋渡しするため実用的な手段になると考えている。いっぽう、100%の純電動に向けた過渡的な技術であるため、こうした車両が普及するには適切な規制の枠組みが必要で、DHLグループのCEOを務めるトビアス・マイヤー氏は次のように述べている。
「産業界と政界、そして私たちの所属する社会の誰もが物流の電動化を推進することで排出量を減らしたいと考えています。同時に、インフラ整備に時間がかかるため、その移行には長い時間が掛かることを認識しています。
私たちは(インフラ整備を)待つべきではありません。EREVのような実用的なソリューションと、過渡的な技術を支援するための政治決定が必要です。輸送セクターは脱炭素化を今すぐに始めたいと考えています。規制はそれを妨げるのではなく、むしろ支援するものでなければいけません」。
環境性能で純電動に迫るレンジエクステンダーEV
ベルリン近郊のルートヴィヒスフェルデとハンブルク間の輸送にEREVが投入されたのは今年2月のことだ。約250kmのルートで、通常の運行であれば再生可能電力で行なう充電だけで運行可能な距離だ。
寒い日や充電ステーションが使用中(あるいは故障中)で利用できないときなど、充電トラブルが発生した場合はレンジエクステンダーが作動する。これは運行の柔軟性を高めるバックアップとして機能し、高い信頼性が求められる商用輸送においては純電動に対する大きな利点だ。
試験の第1フェーズではEREVの91.9%は電力網による充電だけで走行し、レンジエクステンダーによる充電はわずか8.1%だった。従来のディーゼルトラックと比較した場合、CO2排出量は90%以上(約16トン)減っている。
次のフェーズとして発電用の燃料にバイオディーゼルなどの再生可能燃料を使用するなど更なる排出削減を目指す。
現行のEREVはプロトタイプだといい、トレーラを除く全長は10.5メートルで総重量は最大40トン。230kW(ピーク出力295kW)の電動モーターと416kWh容量のバッテリーパックを搭載する。発電機の出力は120kWだ。次のバージョンでバッテリー容量を520kWhまで増やす予定。
また、排ガス量を確実に一定レベル以下に抑えるため、EREVには発電機の使用を制限するソフトウェアが搭載されている。最高時速は89km/hに制限され、スワップボディに約1000個の小包を搭載可能。これに加えてトレーラのけん引も可能だという。
今回の実証運行を通じてEREVは環境性能において純電動トラックに迫る可能性を示した。大型車の排出ガス規制は、実際の排出量、もしくは現実的に予測される排出量に基づいて行なわれることが理想だが、現状のEUの規制は(EU以外も?)そのようになっておらず、BEVをゼロ排出と「みなす」というような政治的な基準だ。
欧州の多くの国ではフリート排出規制のスキームにより、トラックの通行料にはいわゆる炭素税が上乗せされている。その料金は実効的な排出量に基づいて徴収されるべきだというのがDHLの主張で、新しい排出クラスを導入するなどトラック通行料金と排出量の認証に関して迅速な法改正を求めている。
技術的には既に完成されており、実証運行の結果も非常に良好だが、DHLや他社がEREVのようなユニットを追加で導入するかどうかは、EU及び各国の政治的な枠組みに掛かっている。
【画像ギャラリー】OECDの国際交通フォーラムで展示されたEREV(3枚)画像ギャラリー
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