人手が足りないなら賃金を上げて労働力を確保するのが世の常だが、「2024問題」などで人手不足が深刻なトラック運送業界では、なかなかドライバーの給与が上がってこなかった。
このたび全日本トラック協会が公開した「2024年度版 トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態」では、ドライバーの1カ月平均賃金が前年比で7.4%増(賞与込みで6.3%増)となり、ようやく人手不足が賃金に反映され始めた。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
資料/公益社団法人 全日本トラック協会
トラックドライバーの賃金がようやく増加
全日本トラック協会(全ト協)は2025年8月18日、「2024年度版 トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態」を公開した。
運送事業の中核を占める男性運転者の1か月平均賃金は360,300円となり対前年比で7.4%増となった。年間賞与の1か月平均額を加えた月額では404,100円で同6.3%増となり、ようやく賃金アップが始まったようだ。
全ト協はトラック運送事業の労働環境を改善するための基礎資料として、毎年実態調査をとりまとめて公開している。調査は、支給された給与の1か月平均額等について運送事業者に調査票を郵送し、回収して集計したもの。今回は調査対象の4625社に対して12.2%にあたる565社が回答している。
なお、従来の調査では「特積」(宅配便などの「特別積合わせ貨物」)と「一般」を別に集計していたが、今年度から統合した。また、女性ドライバーはサンプル数が少ないため「参考程度」、特種輸送に係る分野については「調査対象外」としている。
この数年間、トラックドライバーに働き方改革関連法が適用されることによる物流の「2024年問題」が注目され、ドライバーの賃金・労働環境改善の追い風になることが期待されてきた。しかし、これまでの実態調査では真逆の結果となっていた。
同調査の2022年度版では平均賃金は前年比1.1%減の342,500円(賞与込みで1.7%減の382,700円)だった。2023年度版では2.6%減の333,500円(賞与込みで1.0%減の378,800円)で、働き方改革でドライバーの賃金は増えるどころか減っていた。
2024年度になってようやく賃金が増加に転じた形だが、労働時間の削減で稼げなくなった長距離ドライバーなどトラックを降りた人も多く、物価高等を合わせて考えると、「遅すぎる」というのが正直なところではないだろうか。担い手を確保し、持続可能な物流を実現するには、賃金アップというトレンドを今後も継続することが重要だ。
2024年度の平均賃金と年齢
前述のとおり、男性運転者(けん引、大型、中型、準中型、普通)の平均賃金は前年比で7.4%(1カ月平均)/6.3%(賞与込み)の増加となった。
ドライバー以外の事務員、荷扱手、整備・技能員などを加えた運送業全職種の平均賃金は341,800円(6.7%増)、賞与込みで388,700円(5.5%増)となった。サンプル数が少なく「参考程度」とされているが、女性運転者の平均賃金は299,200円で前年比6.7%、賃金+賞与は329,100円で5.5%増えている。
男性運転者の職種別(乗務するトラックの種類)では高い方から「けん引」(1か月平均賃金404,200円)、「大型」(同379,600円)、「準中型」(同344,500円)、「普通」(同342,800円)、「中型」(同322,700円)となっている。
賃金が最も高い「けん引」と最も低い「中型」では1か月平均賃金で81,500円、年間賞与の1か月平均額を加えた月額で104,500円の差がつき、乗務する車両による格差も拡がっている。ただ、中型トラックには特装系の車両も多く、調査対象外の特殊車両を加えると結果が変わってくる可能性がある。
なお、男女合わせた全職種の平均年齢は48.5歳だった。前年は47.6歳だったので1年で1歳近く高齢化している。特にドライバーの高齢化は顕著で、男性運転者の平均は49.7歳となった。「けん引」や「大型」では平均年齢が50歳を超えている。運送業を志す若者が少なく、世代交代が全く進んでいない状況には課題があるといえるだろう。
また、ドライバー職では「変動給」の占める比率が大きく、特に男性運転者の「大型」では47.1%を占めている。変動給の内訳では「歩合給」と「時間外手当」の割合が大きい。
個人の成果が反映される変動給は、仕事のモチベーションに繋がるいっぽうで、2024年問題による労働時間の削減が手取りの減少につながる側面もあるので、固定給の比率を増やして行くことも重要になりそうだ。
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