運輸労連が毎年行なっているドライバーの労働環境と安全に関するアンケートの2023年の調査結果が公開された。
調査は労働組合が改善要求等に活用することを目的としているが、目前に迫った「物流の2024年問題」への対応状況や、警察庁が緩和する方針を発表した「大型車の速度制限」に対する考え方など、トラックドライバー以外にとっても興味深い内容となっている。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
図・表/全日本運輸産業労働組合連合会
運輸労連が調査結果報告書を公開
トラック運輸を中心とする輸送分野の労働組合である全日本運輸産業労働組合連合会(運輸労連)は、トラックの安全を守る全国行動の一環として毎年「職場安全点検」「ドライバーの安全と労働環境等に関するアンケート」を実施し、その調査結果をまとめている。
2023年の調査は同年6月に実施されたもので、12月21日に調査報告書が公開された。
「職場安全点検」はトラックドライバーの過労運転を防止し輸送の安全を確保することを、「ドライバーの安全と労働環境等に関するアンケート」は、免許・制度、先進安全技術、休憩施設や荷待ち等の実態を把握することを目的としており、いずれも運輸労連の改善要求行動の資料として活用される。
2023年の職場安全点検では「ドライバーの睡眠場所」に関する質問を新たに2つ設けた。配布した点検票1万935枚に対して有効回答数は4674枚で、前年より13%強減ったが、傾向を見るには充分な数値が集約できたという。
いっぽう、ドライバーの安全と労働環境等に関するアンケートでは8077名のドライバーによる回答を「無回答」を含めて集計した。前年調査に対して「荷待ち」や「カスタマーハラスメント」に関する調査項目が追加されている。
「2024年問題」への対応状況は絶望的
「職場安全点検」では、運行管理・安全対策に関しては改善が進んでいることが伺えるいっぽうで、ドライバーの労働時間等の基準を定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)の遵守状況は悪化しているようだ。
例えば乗務前のアルコールチェックが「実施されていない」は前年に引き続き「0.0%」だったし、会社から過積載しないように「指示されている」は86.9%で前年より改善した。
しかし、改善基準告示の拘束時間については、「守られている」が88.7%(前年は89.8%)、「ときどきオーバーする」が10.5%(同9.8%)、「ほとんど守られていない」が0.8%(同0.4%)となり、前年より悪化した。
他に「一日の運転時間と連続運転時間」「休息期間」「休日労働」など、改善基準告示に関する質問では全項目が前年より悪化している。
働き方改革関連法により2024年4月からトラックドライバーの時間外労働などが制限され、物流の担い手不足により物が運べなくなるという社会問題は「物流の2024年問題」などと呼ばれているが、同じく2024年4月からは改正された改善基準告示が適用される。
改正改善基準告示で拘束時間の制限などはさらに厳しくなる。現行基準での遵守状況が悪化しているようでは、新基準への対応は絶望的と言わざるを得ない。
実際に、「年間3300時間・月間284時間」(原則)という拘束時間の新基準について運行への影響を聞いたところ「特に問題ない」が60.6%で前年より大幅に減るいっぽう、「ダイヤが厳しくなるが可能」は27.5%に増加、「運行が維持できなくなる」も11.9%に増えている。
この1年間で「2024年問題」対策が進むどころか、むしろ厳しさが増しているというのが実情だ。労働組合に加盟する事業者の約12%が運行を維持できないと答えているので、中小企業の多いトラック運送業全体ではさらに深刻な状況と思われる。
拘束時間の短縮のために必要なことは「時間当たりの賃金アップ」が過半数を占め、給与の原資となる運賃が上がらない限り打つ手がない状況も伺える。
なお2024年4月から時間外労働の上限は原則として年間360時間までとなるが、調査ではこれを超える「401から500時間」が15.9%、「501から600時間」が11.3%、「601から700時間」が8.6%と多くなっており、「961時間以上」も1.5%と前年より増えている。
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