追想記(誰もいない道 其の三)
それから間もなく、やっと集落がある場所に辿りついた。ずっと、車の影すら見えず、人の気配さえ感じなかったので、何となく気分は上向いた。集落の中の道路は左カーブになっていて、集落全体は見通せなかった。そこへ、ヘッドライトの灯りが近づいてきた。が、カーブの向こう側なので車そのものは見えない。やっと、対向車だ! と、心躍らせたのも束の間、そのヘッドライトは右折のカーブを描きながら消えてしまった。
すぐにその場所付近を通りかかったので、何処に消えたのか見回したが、すでに車の影はなかった。しかし、対向車が来たということは、秋田方面が通れることを示唆している。よし! やった! と思った瞬間、同時に過去の嫌な経験を思い出していた。
突然、車が停滞している所に差し掛かり、ノロノロと進み、時々ポツンポツンと対向車線を乗用車が走って行く。
「これならいずれ抜けるだろう」と、タカをくくっていると、動きが全く止まってしまう。その時は、事故で随分と抜けるのに時間がかかった。
じゃあ、なぜ対向車が来ていたのか? それは、止まったままの状態に業を煮やした乗用車がUターンしてきたものだった。その隙間を埋めるためにノロノロ進んでいたものだ。それをすっかり動いているものと勘違いさせられ、Uターンできる場所を通り過ぎ、抜け道を行く選択肢を塞がれ、ニッチもサッチも行かない状況に何度追い込まれたか……。
そして、そのことを思い出すと、出発前の所長の言葉を思い出した。
「この荷物は、明後日の朝9時必着だから頼むよ。それまでに着かないと、製造ラインが止まってしまうらしい。遅くとも、日付が変わる前には着いていて欲しい」
過去の悪しき経験が次第に頭の中に広がってくる。あの乗用車は、秋田方面に出かける予定が通行止めで帰ってきたのではないだろうか。通行止めの原因は事故か、それとも……。
例えどんな形の通行止めであっても、夜が明け、道路の凍結がなくならない限り、通行止めの解除はないだろう。そうなると、九時どころか、午前中に着くのがやっとの状況になりはしないか。
この片側一車線の道路だと、前が詰まっていると切り返すのは不可能だ。際限なく、頭の中が悪い方向に転がっていく。もう、半分は走っている。もう何も考えまい。その最悪のシチュエーションを振り切るように、頭を強く横に振った。そして、私の不安を無視するかのように、トラックは時速40km程度で順調に走っている。
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