追想記(誰もいない道 其の一)
晴天の霹靂とはこのことだろう。忘れもしない、あれは4月の上旬だったが、4月に入って数日は経過していた。天気予報では間違いなく季節外れの寒波が来るとは言っていたが、寒さは感じていなかった。だが、酒田を過ぎ、象潟を抜け、当時の本庄市に入っても、まだその気配は感じられなかった。
本庄市では、岩手県の盛岡以北に行く場合、国道341号線から13号線を少し走り、46号線を使っていた。その時は、秋田市に向かう途中だったので、そのまま7号線を突っ切る予定だった。そして、その予定通り走った。
国道7号線は川を渡ると、幾分登り気味で左カーブになっている。その後は、海岸線になる。その海岸線を走りだして間もなく異変に気がついた。いや、その前から、酒田のトラステでコンビニで買った弁当を食べた時も、また、その後もトラックの姿を全く見なかったので、何となく嫌な気配は感じていた。時間だって、まだ深夜と呼ぶには相応しくない10時過ぎだ。
海岸線になってから、それまでの暖房では寒さに耐えられずに、温度設定を上げた。そして、道路が次第に白くなっていく。それは、間もなく凍結道路に変った。いくら寒波が来るとは言っても、もう4月なのに……。私は4月ということに拘ってしまっていた。が、現実を前に頭を切り替えようとした。
今から引き返して、国道13号線に回ろうか……。その考えが頭をチラチラとかすめ通る。だが、山間部を走る国道13号線だって凍結の可能性はある。しかし、すでに数キロ走っているが、対向車が全くなかった。引き返そうか……。と、思うが、トラックを切り返すための適当な場所が見当たらず、そのまま、時速40kmで走り続けた。
チェーン巻いた方が良いのだろうか? どこか広い場所ないかと、前方に気を遣いながら、なおも走り続けた。
それにしても、酒田から本庄まで海岸線を走ったのに、道路は何ともなかったではないか! なぜ急に? などといろんな思いが浮かぶ。そして、思い当たる理由が、寒気団の縁が本庄ではなく秋田県に入る手前くらいにあったのではないかと、自分なりの答えを出した。
答えを出すと、何となく気が楽になった。が、道路の凍結はそのままだ。そして、トラックに限らず、乗用車すら対向車も同方向の車も全くない。一体、この付近の住人はどうしているんだろ? クルマ通勤者はいないのか? また、さまざまなが頭に浮かんでは消える。
もうその頃になると、30分は走っていただろう。信号のない道を、不安とは裏返しにトラックそのものは順調に進んでいく。
いくら凍結している道とはいっても、ここは国道7号線で幹線道路なのだ。それが、全く対向車がないとは一体どいうことか? また、さまざまな思いが浮かんでくる。しかし、待てよ! と、ある考えた閃いた。このまま、同方向の車がいない方が良いのではないか? つまり、タイヤの表面の圧力がかかる部分は溶けやすい。それが、回避できるわけだ。
つまり、凍結であっても、必ず滑りやすいとは限らない。今の状態は、表面がガサガサで割と滑らないはずだ。そこで、少しブレーキを踏んでみることにした。幸い直線道路だ。一回、二回と、回数を重ねる毎に強く踏んだ。よし! これだと、このままの時速40kmで十分安全圏だ。多少の急ブレーキ気味では滑らない。随分、気持ちだけは楽になった。
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