■横転など事故のリスクを低減し、温度ムラもなくせる独自の荷降ろしシステム
プッシュオフトレーラという名前は、荷台内の可動式フロアで積み荷を押し出す(プッシュオフ)ことに由来。L字型の可動式フロアは油圧シリンダーで2段階に動く仕組み。
各部はバネで側壁・床面に押さえつけられているので、荷台内に合材が残ることはないという。作業時間はフル積載時で約2分だが、これは通常のダンプと同等のスピードだ。
荷台内の合材は、いくら保温機能があるとはいえ、微妙な温度ムラが発生。これをダンプアップして一気にドサッと降ろすと、温度が低い部分だけが先に落ちてしまい、品質不良の原因となる。
コレに対し、プッシュオフトレーラは合材を金太郎飴を切るように降ろすことが可能。これにより、なるべく高温かつ温度ムラが少ない(専門的には「粒度分離が少ない」という)合材輸送が可能となる。
荷台をダンプアップさせず荷降ろしができるプッシュオフトレーラは、横転や架線への接触といった事故発生リスクが極めて少ないのも強み。合材輸送における架線への接触事故は、年2~3回ほどの頻度で発生するそうで、その都度、高額の損害賠償が必要となるそうだから、このメリットは大きそうだ。
■大型ダンプより効率的なスペック 最新の第2世代は欧州最新式の足回りも搭載
あおい運輸が導入したプッシュオフトレーラはトレーラGVW(車両総重量)36t級の3軸車で、最大積載量は標準仕様で28200kg。荷台内寸は長さ6200×幅2300×高さ1150mmとなっている。
特殊車両通行許可の運行経路次第で実際の最大積載量は減トンされる場合もあるが、単車の大型ダンプの2倍以上の最大積載量は、輸送効率アップの大きな一助となるだろう。
主要寸法は、最遠軸距(キングピン中心部からトレーラ最後軸中心部までの長さ)8940mm、連結全長11620mmで、最小回転半径6.7mと最小旋回幅7mは単車の大型ダンプよりコンパクト。トラクタは第5輪荷重11.5t級の2軸車(4×2駆動)が基本だ。
足回りは当初、BPW社製のエアサス・リフトアクスル・ディスクブレーキ仕様のワイドシングル車軸を搭載していたが、2020年公開の第2世代からはSAFホランド社製に変更された。荷台カバーも手動式から電動開閉式スライディングルーフに変更された。
ちなみにSAFホランド社製の車軸は、独自のインテグラルディスク方式を採用し、ハブボルト周辺部とディスクローターの間にアダプタを介することで、ブレーキ作動中に局所的に発生する高温下現象を回避。制動力低下とローター偏摩耗抑制に寄与する。
なお、車軸も含めた車両全体のメンテナンスおよびパーツ供給は、日本国内に在庫拠点を持つ伸工貿易(東京都渋谷区)のサポートのもと、あおい運輸の関連会社のトップアローズが行なうという。
アスファルト合材輸送はダンプ業界全体の10%未満のニッチな業界。だが国内の年間出荷数は約4000tと小さくない。輸送の約8割はダンプが担っているが、近年はドライバー不足や高齢化で車両台数が不足。業界のプッシュオフトレーラに対する関心は今後ますます高まりそうだ。