いくらトラックドライバーが足りないといっても、「じゃ、代わりにバスやタクシーで荷物を運べばいいじゃん!」といった単純な話ではないが、2024年問題による輸送力不足が懸念される中で、この制度、うまく運用していけば課題解決の一助となるかもしれない。
ここでいう貨客混載制度は、バス・タクシーで人と貨物を運び、トラックで貨物と人を運ぶといった、旅客運送事業・貨物運送事業の垣根を越えることを認めた制度のこと。
現在は貨客混載を行なうにはさまざまな条件があるが、国土交通省は2023年5月30日、条件の一部緩和を盛り込んだ制度改正を通達。新制度は6月30日より施行される見込みだが、あらためて貨客混載とはどんな制度なのか? そのあらましをお伝えしよう。
文/フルロード編集部、写真・図/フルロード編集部・ヤマト運輸・国土交通省・写真AC(トビラ写真)
貨客混載制度の背景
元来、広義の意味の貨客混載は鉄道・フェリー・航空機などで行なわれてきたものだが、商用車では路線バス(乗合バス)で赤字路線等の収益を改善すること目的に貨物を運ぶことを認めたのが始まり。
その後、2017年9月に制度の見直しが行なわれ、対象を貸切バス・タクシー・トラック事業者へ拡大。これらの事業者は、貨物運送事業や旅客運送事業の許可を取得した上で、人口3万人以下の過疎地域において貨客混載が認められるところとなった(路線バスは全国で実施可能)。
また、それまで350kg未満の荷物を運ぶことが認められていた路線バスでは、貨物運送事業の許可を取得すれば350kg以上の輸送ができるように改正された(350kg未満は許可不要)。
こうした制度の背景には、運送事業の人手不足や、地方地域の過疎化、eコマースの急速拡大を受けた小口配送個数の増加などの問題を抱える中で、交通網・物流網の維持が狙いにある。
また時間外労働の上限、年960時間を定めた物流の働き方改革(2024年問題)を見据え、貨客混載への注目も高まってきており、制度を活用する動きは全国の事業者に広まっている。
見直しの内容
今回の見直し内容は、これまで過疎地域に限定されてきた貸切バス、タクシー、トラック事業者でも、路線バスと同じく全国で貨客混載を行なえるとするもの。
ただ条件として、発着地が過疎地域以外となる場合において「関係する地方公共団体」「旅客自動車運送事業者及び旅客をそれぞれ代表し得る者」「貨物自動車運送事業者及び荷主をそれぞれ代表し得る者」との協議が整っていることと定めている。
これまでにヤマト運輸、日本郵便、佐川急便などが拠点間輸送に路線バスを利用した貨客混載をスタートさせ、配送を担ったバス事業者では収益改善など一定の効果があったことが報告されている。
そのいっぽう、貸切バス・タクシー・トラック事業者では、一定のニーズが確認されているものの、非過疎地域で運用できないという問題点もあった。
特にタクシーでは、荷物は多く積載できないが、医薬品配送や高齢者の買物支援などのニーズが一定数存在しており、今回の改正で事業者の収益改善や利用者の利便性向上につながる期待がある。
他方、トラック事業者では貨客混載の事例は少ないが、奈良県奈良市の山間地域月ヶ瀬地区では、物流サービスを維持することが困難な地域となっており、貨物運送事業者による貨客混載が検討されている。
トラック事業者の働き方改革が施行される2024年度には、物流の輸送力は14%不足(対策を講じない場合)するといわれている。
貨客混載がすべてではないが、これまでのトラックは荷物を運ぶもの、バスやタクシーは人を運ぶものといった固定観念を捨て、今は同じ輸送サービスとして活用していかなければならない岐路にあるのかもしれない。
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